勢いを増すインドパワー!カリフォルニアの青空の下でベア650を堪能
カリフォルニアの抜けるような青空に、ロイヤルエンフィールドの新モデル「Bear650(ベア650)」のグラフィックが映える。近年の攻めのカラーバリーエーションは新モデルでも同様で、とてもロイヤルエンフィールドらしい。岩肌が露出した乾燥した山々を遠くに見ながらスロットルを開け続けると、648ccの空冷ツインエンジンは抜群の感度でそれを加速に転換。どの回転域でも胸の空く気持ちよさをライダーにもたらしてくれる。
広大なアメリカの大地にいるという夢見心地の気分に、このエンジンの鼓動やビート感が加わり、心が踊り出す。ベア650のバランスの良さといったらない。
日本を出発するまでは「なんでアメリカなんだろうなぁ」とあまり深く考えずにいたのだが、カリフォルニアにはベア650の確かなルーツがあった。ベア650の認識に関してもINT650の派生モデルという感じだったが、その作り込みはどこまでも真剣だった。近年のロイヤルエンフィールドのモデルごとのストーリー作りはとても秀逸だし、ワールドローンチの演出もとても上手い。
僕は彼らのワールドローンチに何度か参加しているが、今この規模のローンチを年に何度も行うメーカーは他になく、その勢いは年々増しているといっていいだろう。インドパワー、恐るべしである。
エディさんへのリスペクトが「ベア650」を生み出した
試乗前日の夜、ベア650の発表会とパーティーが開催された。ステージの前には年季の入った1950年代のロイヤルエンフィールドレーサーが鎮座する。
この日のゲストは、1960年に「ビッグ・ベア・ラン」というレースで優勝したエディ・マルダーさん。エディさんは当時16歳、ロイヤルエンフィールドのフューリー(500cc)で参戦し、見事優勝を果たしたのだ。「ビッグ・ベア・ラン」はカリフォルニアのビッグベア湖周辺の砂漠を走るレース。765台が参加し、わずか197台しか完走できなかった過酷なレースで、エディさんは4時間21分というトップタイムでフィニッシュラインを駆け抜けた。
「崖から転げ落ちたりもしてフットペグは折れて、サスペンションはぶっ壊れたけど走り切ったんだ。明日の試乗はビッグベア湖まで行くわけではないけど、砂漠を見渡すことはできるだろう。そこで砂漠を突っ走ることを想像してみてほしい。想像を絶するはずだ」とエディさん。
それから64年を経てエディさんの挑戦と不屈の精神にインスピレーションを受けて誕生したのが、スタイリッシュで多目的なスクランブラー「ベア650」なのだ。
ちなみにエディさんのトークショーで進行を務めたゴードン・メイさんは、ロイヤルエンフィールドの社史研究家。130年以上の歴史を知るゴードンさんの引き出しにはこういった知られざる歴史がまだまだ山のように入っており、ロイヤルエンフィールドの車両開発において重要な役割を果たしているのである。歴史を継承し、昔のスピリットを大切にするロイヤルエンフィールドにとって欠かせない人物である。
インドの生産力と経済力と成長力、そしてイギリスの伝統や歴史は、今とても良いシナジーを生み出していると思う。
INT650をベースにスクランブラー化。ただし70%以上のパーツを変更
ベア650のすべてのカラーのサイドカバーには、小さく「INT(インターセプターの意味。日本とアメリカではホンダの商標となっているため、INTの車名で販売されている)」の文字が書かれている。1960年のエディさんの栄光をきっかけにアメリカでの販路を拡大したロイヤルエンフィールドは、インターセプターと名付けたスクランブラーを登場させたのだ。発売当時は736ccだったが、2017年にINT650が発表された。
ベア650はこのINT650の基本設計は踏襲しつつ、70%以上のパーツを刷新。タンクが共通のためINT650の面影が強く残るが、スクランブラーに合わせたデザインはとても秀逸。またフレームはダート走行と重量を増した倒立フロントフォークやホイールに対応するためにフロントまわりにガセットを追加。さらにパニアケースを装着することを考慮してリヤまわりのデザインも変更している。
前後ショーワ製のサスペンションはストロークを伸ばし、ダート走行に対応。ホイールはフロントに19、リヤに17インチをチョイス。タイヤはロイヤルエンフィールドが初めて採用するインドのMRF製のブロックパターンとなっている。ブレーキは前後ディスクが専用品でダート走行用にリヤのABSをカットすることが可能だ。
エンジンは同社が大切に育む648ccの空冷パラレルツイン。パワーに関しては、47.4ps/7150rpmで、欧州のA2ライセンスがあるためこれ以上あげることができないそうだが、トルクはINT650よりも8%向上させ5.76kg-m/5150rpmを発揮。また、マフラーは同エンジン初の2in1集合で見た目のスポーティさを実現。もちろん軽量化にも貢献しているのだが、他の部分の重量増もあり、車重は214kg(燃料90%)とそれほど軽くはない。
オンもオフもスクランブラーらしい抜群のバランスで走破
走っていると47.4psのバイクとは思えないほどよく走るし、スクランブラースタイルであることを忘れさせてくれるほどコーナリングが『速い』し『楽しい』。走るほどに皆のペースがグングンと上がっていくような感じで、先導もそれに釣られるようにアベレージを上げていく。
市街地を早々に抜け、高速道路では4、5、6速でスロットル全開を確認。風圧に耐える必要はあるものの直進安定性は抜群だった。その安定性はワインディングでも健在。リーンやブレーキングでは大径ホイールらしいおおらかさが安心感をもたらし、直立付近から向きを変えるシーンでは鋭さを披露。しっかりと向きを変えた上で旋回に落ち着くと前後タイヤのグリップ感が訪れ、車体を起こしてスロットルを開けると気持ちよさと後輪に確実なグリップが生まれるのだ。
立ち上がりではエンジンの高回転を使っても鋭さを伴ったまま安定感を持って加速。この走りが冒頭の『速さ』に繋がっているのだ。切り返しなどではフロントの立ちの強さを感じるものの、それは手応えともいえ、ライダーが操作している実感を高めてくれる。
ロイヤルエンフィールドの650シリーズは、それぞれのスポーツ性を驚くほどしっかりと磨き込んでおり、それはベア650も同様だった。ベア650に速さを期待している人はそれほどいないだろう。でもそこをしっかりと作り込むのがロイヤルエンフィールドなのだ。
ワインディングを抜け出し、低い回転を使いながらベア650の走りを噛み締める。カリフォルニアの乾いた景色に馴染むデザインを愛でる。ベア650は想像以上に鷹揚なバイクだった。歴史的背景やそこに宿る精神もとても良い。全てを知るととても愛おしい存在に映る。カリフォルニアに来ないとわからないことばかりだ。
荒野を見渡すと、そこがとても神聖な場所に見えた。僕はエディさんの栄光をリスペクトしながら、もう一度スロットルを大きく開けた。
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