ベストカー本誌で30年も続いている超人気連載「テリー伊藤のお笑い自動車研究所」。過去の記事を不定期で掲載していきます。今回はBMW440iMスポーツ(2020年-)試乗です!(本稿は「ベストカー」2021年4月10日号に掲載した記事の再録版となります)
撮影:西尾タクト
■ステアリングを握っていると「走りがよければいいんだろう?」という声が聞こえてくる
大きく、ドギツクなったキドニーグリルが話題のBMW4シリーズが今回の試乗車だ。M440iクーペの4WD車である。
新しいキドニーグリルはこのクルマによく似合っていると思う。
しかし、そもそもBMWにデザイン性を求める必要はないというのが私の考え。BMWは無愛想で人付き合いが悪くても仕事ができればいい。つまり、走りがよければそれ以上に求めるものは何もないということだ。
その姿は「勝てばいいんだろう?」と、マスコミ対応どころか親会社幹部との付き合いも悪かったという落合博満さん(中日ドラゴンズ元監督)を彷彿とさせる。
「俺は峠やサーキットでしっかり走れて、雨の日でも安全であればそれでいい。それが最高のファンサービスだ」
このクルマからはそんな声が聞こえてくる。まさに俺流、落合博満である。
エンジンは直6、3Lターボで387ps/51.0kgm。「直列6気筒」という響きだけで特別感がある。これぞBMWの真骨頂だが、もっと安い184ps/30.6kgmの直4、2Lエンジンで充分だという想像もつく。
それにしても新型コロナのこの時期に、BMWのクーペ、しかもMシリーズを買うという人は相当レベルが高い。世間に背を向け、我が道をゆくようなものだ。冬でもTシャツと短パンで海沿いを歩いているサーファーに近いのではないか。
しかし、ちょっと動かしてみると、すぐに「387psも要らないな」という結論に達した。
私は387psのクルマを乗り回す人生を送っていない。ここ半年くらいの行動を振り返っても387psが必要だった瞬間は1秒もなかった。
焼肉食べ放題のようなものかもしれない。若かったら店に行ってお腹いっぱい食べたいところだが、今は二の足を踏む。
このクルマも同じだ。運転するのに相当なエネルギーが必要だ。
乗る前にレッドブルを4本くらい飲んで、天狗のお面をかぶって運転しなければならないような気がしてしまう。
1058万6000円(オプション含む試乗車の価格)でこのクルマを買っても、その性能を発揮することは一度たりともないだろう。
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■「三百八十七馬力ステッカー」をサイドに貼りたい
今回の440iクーペ4WD車は1000万円オーバーだが、思えば昔の1000万円オーバー車に比べれば凄くよくできている。
私が20年ほど前に乗っていたベンツEクラスワゴンは980万円くらいだったが、ボディもエンジンの回転も重く、なぜこんなに高いのか? と思っていたものだった。
それが今、このクルマは夢のようによく走ってくれる。もしかしたら、1000万円レベルのクルマは実質的に安くなっているのかもしれない。
さて、ちょい乗りでは「必要ない」と判断した私だったが、本格的に走らせると、その気持ちよさに唸ってしまった。
やはりエンジンが素晴らしい。コーナリングも下道のカーブごときでは評価のしようもない。BMWにとっては爪楊枝をくわえてシーハーしながら歩いているようなものである。
さすがはクルマ界の落合博満。走りに関しては文句のつけようがない。
一方、387psの過剰さは否めない。おそらくこのクルマを買った人のほとんどは、売るまでフルパワーを使わないのではないか。いっても200psくらいだろう。
そんなことを考えていると、このクルマは「440i」ではなく、ズバリ「387馬力」という車名にするべきではないかと思えてきた。
サイドボディに大きく、漢字で「三百八十七馬力」と表示してほしい。その夢のような数字を前面に押し出してほしいのだ。
「BMW公認三百八十七馬力」このクルマの価値はここに集約されていると思っていいだろう。
ちょい乗りではわからなかった走りの魅力が全身に突き刺さった。運転していると自分の価値観さえ変わるような気がした。走りで人生観を変えてしまうとは、BMW恐るべしである。
世界の自動車メーカーがEVの覇権争いをしているなか、BMWは直6ガソリンターボでワインディングをぶっ飛ばすためのクルマを作って売っている。
もちろん、BMWもEVの開発に余念はないはずだが、「走り」へのこだわりはまったくブレていない。こんな頑固なメーカーが日本にもひとつくらいあってほしいものである。
(写真、内容はすべてベストカー本誌掲載時のものです)
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