各高級メーカーはかなり幅広いオーダーメイドに対応するサービスを展開している。これにより色、使用素材など世界に1台だけのクルマを作ることが可能だ。しかし、過去には個人がクーペをカブリオレにするというとんでもないオーダーをし、メーカーがそれを受けたというケースもあった。そしてそんな希少車がオークションに登場…気になるお値段は?

文:古賀貴司(自動車王国) 写真:ベストカー編集部

■存在しないはずの993カレラSカブリオレ

フロントから見ると違和感はほぼなく、状態の良い993カブリオレに見える当該車両。

 2004年10月11日から13日にかけて、アメリカ・テネシー州の「チャタヌーガ・モーターカー・フェスティバル」と併催された、ブロードアローズのオークションにポルシェファンを驚かせる1台が登場した。1998年式911カレラSカブリオレ(993型)である。

「993型にカレラSカブリオレなんて存在したかな?」とお気づきの方は鋭い。当時、カレラSにオープンモデルは存在しなかったはずなのに、なぜこの車が存在するのか?

 これはドイツのポルシェコレクターである、ハラルド・オットー・カレンベルグという人物が作ったワンオフモデルである。そういったモデルをポルシェに発注できる人物である以上、財力は相当なものだったはずだ。

 想像するに自然吸気エンジンの魅力とカレラSならではの軽快な走りを求めたのだろう。当初、ポルシェは断っていたようだがいつしか根負けして、この特別な要望に応えることを決断した。

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■改造ではなく正規仕様という珍しい個体

リアを見る人が見れば「カレラS」の名前から違和感を覚えるだろうが…。普通の人ではスルーするはずだ。そこに巨額を投じるとは…。オーダーしたオーナーのこだわりを強く感じる。

 実は当時、アメリカのポルシェ・ビバリーヒルズでは911カレラSカブリオレが5台だけ販売されたことがある。

 もちろん、ポルシェから許可を得てのことだったが、これらは純正ではなかった。というのも、911カレラカブリオレをベースに外部業者が改造を施したものだったからだ。

 一方、カレンベルグの一台は違う。ツッフェンハウゼン工場で生産された911カレラカブリオレを、ポルシェエクスクルーシブのワークショップで正規に仕様変更。

 TÜV検査を通過し、ポルシェによる証明書類も完備された、正真正銘の「純正」911カレラSカブリオレなのだ。

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■世界に1台だけのカレラSの落札金額は40万ドルオーバー

ポルシェエクスクルーシブのワークショップで受注しただけに仕上がりも違和感なし。ソフトトップの状態も美しく保たれている。

 カレンベルグは17年以上、この特別な911を大切に所有。走行距離はわずか16,200キロメートルに抑えられた。

 2018年にRMサザビーズのパリ・オークションで約27万ユーロで売却された後も、次のオーナーは6年間で280マイル未満しか走らせていない。

 2022年にはドイツ・アスペルクのポルシェ・レストア施設で整備を受け、「ポルシェクラシックテクニカル証明書」も取得。エンジン、コンバーチブルトップ、サスペンションなど、主要部分のメンテナンスも完了済みだ。

 ブロードアローズは今回のオークションで、落札予想価格を40万ドル以上と設定した。これは、昨年同じ1998年式(996型)のワンオフモデル「911クラシッククラブクーペ」が120万ドルで落札された実績を踏まえてのことだろう。

 蓋を開けてみれば、911カレラSカブリオレの落札価格は40万1000ドルであった。

 911クラシッククラブクーペには及ばなかったものの、6年前の価格から26%の価値上昇を見せている。この結果をどう評価するかは、見る人の視点によって分かれるだろう。

 しかし、ポルシェが一人のコレクターのために手掛けた唯一無二の存在という事実は、これからも色褪せることはない。

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