今、全国各地で連節バスの運行が花盛りである。連節バスとは車体が二つ以上連なった形だが、法規上はボディがアーティキュレート(間接で折れ曲がる)ボディを持つバスのことで、街中を走れば存在感があり注目度は高い。
連節バスのニュースに触れるたびにふと思いだすのは、今から35年程前に開催された科学万博―つくば85で運行された日本で初めての連節バス、通称「スーパーシャトル」である。
(記事の内容は、2021年3月現在のものです)
執筆・写真(特記以外)/諸井泉(元シャトルバス中央事業所第6グループ運営管理者)
※2021年3月発売《バスマガジンvol.106》『日本を走った初めての連節バス』より
■あれから間もなく40年……連節バスはその頃から注目されていた
1985年、茨城県・筑波研究学園都市で開催された国際技術博覧会(科学万博―つくば85)の交通アクセス手段として、スウェーデン・ボルボ社製(ボディは富士重工・現SUBARU)の連節バスを100台導入。
万博会場と、常磐線の臨時駅として開業した万博中央駅(現在のひたち野うしく駅)とを結ぶ区間で運行された。車両の全長が18mと長いことから道路交通法の特例措置を受け、運行区間は限定されていた。
この運行を委託されたのが東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県・福島県内31のバス事業者で、運転者と運営管理者(運行管理補助者)が万博開催の期間中車両基地となるシャトルバス中央事業所(万博中央駅に隣接)に派遣された。
ある日のこと、自宅の押し入れを整理していて一番奥に古い段ボール箱があるのに気が付いた。重い段ボール箱を引きずり出し、開けてみて大変驚いた。中に入っていたのはスーパーシャトルの教育マニュアル、連節バス概要小冊子、新聞の切り抜き、写真のネガなどであった。
おまけにスーパーシャトル運転者の制服までもが保管されていた。中でも注視したのは1985年7月に撮影された万博中央駅の航空写真である。
万博中央駅を中央にして、写真上部にシャトルバス中央事業所とスーパーシャトル駐車スペースがある。左手(土浦方面)に事務所棟(点呼執行所・食堂・乗務員休憩室)と運転者宿泊棟、真ん中にはスーパーシャトルがずらりと並んでいるのが見える。
さらに駐車スペースの写真上部には、富士重工自動車整備工場が見える。スーパーシャトルを横に並べると7台は入りそうな巨大整備工場である。さらに奥には第二車庫が見える。
写真の下部はスーパーシャトルバスターミナルとなっており、6つのバスレーンと、道路上に1~17の番号が記され、バス運転者は番号に沿ってバスを走らせると指定のバス乗り場にたどり着けるよう工夫がされていた。
乗り場は全部で17カ所あるが、そのすべてが万博会場(北ゲート)行きの乗り場である。すべてにおいて圧倒的スケールの大きさで運営されていたことがわかる。
当時、筆者は都内の大手貸し切りバス専業会社に勤務していたが、入社2年目で幸運にもシャトルバス中央事業所勤務を命ぜられ、半年間、連節バスの運行管理補助業務に携わっていた。この連載シリーズでは、これらの資料を基に、35年の時を超え当時の記憶を掘り起こしてみたい。
■万博終了後に閉鎖されていた万博中央駅が形を変えて開業
35年ぶりに常磐線の「ひたち野うしく駅(万博中央駅)」に降りたった。駅はすっかり様変わりしており当時の面影はない。
それもそのはずで、万博中央駅は万博終了後しばらく閉鎖されており、1998年に「ひたち野うしく駅」として新規開業した。これは万博中央駅を継承したものではないとのこと。
ただし、駅の西口東京寄りに万博中央駅があったことを記す記念碑が建てられており、これが唯一の証である。「かつてここに万博中央駅があった。」との書きだして始まる碑文には次のように記されていた。
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●万博中央駅跡記念碑 碑文
国際科学技術博覧会“科学万博―つくば85”が筑波研究学園都市で開催されたのは1985年であった。(中略)
3月17日から9月16日までの6か月の開催期間中に、会場を埋めた観客は2000万人を超える盛況で、内300余万人が牛久町大字中根、字鳴牛、原田、兎谷津地内に臨時に設置された常磐線万博中央駅を利用した。
万博中央駅の設置面積は9.8ヘクタールに及び、さらに幅員34メートルの学園西大通り線を通じて会場まで、日本で初めての連節バススーパーシャトルが運行し、観客輸送の主役を担った。万博中央駅はまさに科学万博―つくば85の表玄関としての役割を果たし、牛久町の面目を遺憾なく発揮した。
世紀の祭典成功の一翼を担った“万博中央駅”の栄光を称えるため、ここに碑を建立して、永く記念とするものである。
昭和61年5月8日 万博中央駅跡記念碑建立委員会
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