2024年がまもなく終わる。この1年間、モータースポーツ界にとってはトピックの多い年だった。なかでも日本メーカーのドライバーの育成は、大きな動きがあったように思える。この取り組みが前向きになることを、心から願いたい。そう思った2024年だった
文:段 純恵/写真:TOYOTA、HONDA、Haas F1 TEAM、HRC
■様々な可能性の幅を広げるハースF1チームとの提携
7大会9戦で行われた全日本スーパーフォーミュラは今季の全日程を終了し、最多の3勝を上げた坪井翔がドライバーズチャンピオン。そして牧野任祐と太田格之進が2勝ずつ挙げたダンディライアンが5年ぶりのチームタイトルを獲得した。
観客動員も2013年の発足以来最高にして前年比127%増の20万9,600人を数え、運営側の様々な努力が形となって現れてきたいま、新たな風が国内最高峰フォーミュラレースに吹こうとしている。10月11日にトヨタが発表したF1人材派遣計画だ。
正直なところ、コロナ禍が始まる以前からSFは先の展望が見通せないカテゴリーになっていたと思う。国内最高峰といっても、タイトルを獲得したところで世間の知名度が上がるわけじゃなし、世界に挑戦するきっかけになるわけじゃなし。
チャンピオンになれたとしても、その先の目標をどこに置けばいいのかわからないと話す選手も一人や二人ではなかった。そこまで言うなら自力で外に出れば?と言うのは簡単だが、それは限りなく非現実的。
日本のモータースポーツ界を支えるメーカーに、まだまだ伸び代のある若者に外の世界を経験させようとする動きがみられないことを、筆者もじれったく思っていた。
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■大変革したトヨタのモータースポーツに対する姿勢
それが昨年、一つの風穴が開いた。2022年からWECに参戦しル・マンの総合優勝、年間タイトルの獲得で実力と存在感を世界にアピールした平川亮が、2023年F1マクラーレンのリザーブドライバーとなったのだ。いうまでもなくお膳立てしたのはトヨタである。
さらに来季からは「ドライバーやエンジニア・メカニックの人材育成」「データ解析・活用」「車両開発」の三点を鍛えることを目標に、ハースF1チームと業務提携という、より直接的で大きな風穴が開いたのである。
トヨタのこの動きが、キャディラックに次ぐ12番目のチームとしてF1に復帰するための布石かどうか、本音を言うと筆者には興味がない。F1におけるデータ解析その活用、車両開発を量産車の現場で活かすと言われても、両者間のあまりの違いに「はて?」と思わないでもない。
そもそも派遣される人材がレースチームに帯同するのか、それともテストチームやファクトリーで手伝うのかなど「具体的な話はこれから」と聞いてズッコけそうになったが、まぁそこは追々決めていけばいいことだ。
大切なのは、トヨタが専門としてきた耐久レースだけでなく、これまでホンダが『専売特許』にしてきたF1でも若者たちを育てる道筋作りに本格的に動き始めたことである。ホームにいてはできない経験を外でさせることで、その人の能力をさらに引き出しより強くすることはWECで経験済みだ。
それをF1に拡大するというのだから、驚くなというほうが無理である。ただ2009年の撤退時に「私の目の黒いうちはF1に戻ることはない」と断言していた現会長。
その考えを翻し、再びF1と接点を持つことにGOサインを出したのは、撤退を発表しから15年の間に、モータースポーツを含めてトヨタを取り巻く環境の変化に伴い、会長の人育てについての哲学と熟考、そして強い決意があってのことと推し量るのみだ。
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■アメリカへ旅立つホンダ期待の新星
一方のホンダだが、トヨタの発表の約半月後に、太田格之進がIMSAの公式テストにアキュラで参加。このテストで太田が好走を見せた太田は、正ドライバーとして起用されることが決まった。ぜひ頑張って欲しい。
それにしてもなんとも唐突な発表で、なぜ今、IMSA、そして太田なのか。理由をホンダ関係者に聞いてもハッキリした答えは返ってこなかった。ただ聞くまでもないのは、これまでアメリカで日本人の顔として活躍してきた佐藤琢磨に、そろそろ引退の時期が近づいていること。
またF1に日本人を送り込むよりはIMSAのほうが何かとお手頃なこと、そして太田の英会話能力に問題がないということだ。ともあれ、テスト参加が決まった後のSF最終戦で太田が見せた速さと強さは、タイトルを争っていた坪井を含めた他の3人と比べてもズバ抜けていた。人間、目標がハッキリしているとこうも気迫や目の色が違うものかと感じたのは筆者だけではなかったと思う。
トヨタの活動を「人材派遣」と書いたが、別に茶化しているわけではない。トヨタにしろホンダにしろ、一般の派遣会社が派遣先の企業から手数料を頂戴するのとは逆に、若者の外部派遣にあたっては何らかの形で「お支払い」が必要であろうことは想像に難くないが、それでもやるべきと判断したからこその取り組みなのだろう。
またドライバーの派遣について、両社ともSFでの成績がマストと謳っているわけではないが、欧州F2と比べ世界の注目度もスーパーライセンスポイントも低かったSFにとっては、カテゴリーとしてアピールするチャンスでもある。
今季のSFは、実力に難のある選手の存在で周りが余計な気を遣いながら走ることを強いられたり、危険走行を繰り返す選手にペナルティが一度も課されなかったりと、国内最高峰の名折れとしか言い様がない事象が多々見られた。
来季のSFには、F2に引けを取らないハイレベルなレース競技であることを全面に打ち出す施策を期待したい。そうしてこそSFが日本の最高峰レースであることを証明できるとのだと信じている。
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