子供が学校に行ってくれず困っている…そんな悩みを抱える親は多いかもしれない。 

実際、全国の不登校の小中学生は10年連続で増加しており、2022年度には約30万人にもなった。 

小児科医で日本眠育推進協議会の三池輝久理事長は、この背景には子供の夜型生活があるのではないかと考えている。

「今、夜10時に寝る乳幼児が15~30%いると言われており、年齢が上がるにつれこの数字は上昇します。そういう子供たちは明らかに睡眠不足で、朝、幼稚園・保育園や学校に行くのに苦しい思いをしているはずです」

子供が夜型になってしまう主な原因は、生まれもった素質も大きいが、加えて大人が夜型にならざるを得ない現代社会の構造にあるという。

そんな中、子供の朝型生活はどうやって守ればいいのか。三池さんに対策を聞いた。

夜型が避けられないのに学校は朝型

「現代社会では、若い親たちは長時間労働で夜型生活を避けられない。そして子供たちも塾などの習い事で夜遅くなる。それなのに、幼稚園・保育園や学校は朝型のままなのです。本来は、子供が早く寝られるように長時間労働の改善をしたり、逆に寝る時間が遅くなっていることに合わせるのであれば学校の始業時刻を遅らせたり…、社会全体での対策が必要だと思っています」

三池さんはまず、社会の構造に矛盾があることを指摘する。それでも、学校の開始時間が変わらない以上は、子供は朝型の社会に適応したほうがメリットが大きい。そのためには夜8時台に寝て朝6時台に自然に起きられるリズムで生活することが望ましいという。

朝6時には自然に起きられる生活を目指したい(画像はイメージ)
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寝るのが遅い夜型の子供は、まだ眠る必要があっても幼稚園・保育園・学校に合わせて無理やり起き、睡眠不足が蓄積していく傾向にある。この状態が続くと、全身のパフォーマンスがじわじわと落ちていき、慢性疲労的な状態に陥る。そして日常生活が困難になり、引きこもりや不登校につながってしまうのだという。

子供の睡眠の重要性や睡眠不足の弊害についてはこちら↓
「子供は夜8時台に寝かせて」遅寝が不登校や発達障害のリスクに?睡眠不足が成長に与える影響を専門家に聞いた

しかし、子育てをしながら会社員をしていれば、「子供を夜8時台に寝かせる生活などとてもできない」という人も少なくないだろう。

子供が小学生以上になれば塾などの習い事も始まる。塾の終了時間は午後8、9時台になることもある。

さらに今は、子供でもスマホやタブレットを持つのは当たり前。そうした機器を夜に使えば、画面の光が眠気を促すホルモンである“メラトニン”の分泌を下げてしまい、目が冴える原因となってしまう。

このように、子供の夜型を助長する要素はたくさんある。しかし、そのような中でも親ができることはあるという。

朝型を守る2つの方法

三池さんが、忙しい子育て家庭こそ実践してほしいという対策は以下の2つだ。

(1)食事の時間を一定にし、夜遅くに食事を取らない(特に塾の後は控える)

食事の時間を一定にすることが、体内時計のリズムを守るうえで大切だ。食べることで体が覚醒してしまうので、不規則だと体内時計が狂っていってしまう。

(夜間授乳のリスクについてはこちら:夜中の授乳が睡眠障害の要因に?「生後3〜4カ月を過ぎたらやめてもいい」という専門家に睡眠と授乳の関係を聞いた)

中でも、夜遅くに食べないようにすることが重要。就寝時間の前にしっかり食事を取ると、大人でも体調を崩しやすくなり、翌朝起きるのがつらくなる。夕食は少なくとも就寝の2時間前までに済ませたい。

特に気を付けたいのは子供が塾に行っている場合だ。帰りが遅くなる時は、行く前か移動中の車などの中で夕食を済ませてほしいという。塾のあとにどうしてもお腹が空いてしまうのであれば、大豆製品(豆腐、納豆、豆乳など)や乳製品(牛乳、チーズ、ヨーグルトなど)、バナナ程度の軽いものにとどめておこう。

(2)家族全員で早く寝る日を作る

普段から寝る時間を早めるのが一番だが、どうしても難しければ週末などを利用し、家族全員で早寝をする日を週1、2日作ってみよう。

どれくらい早寝をすればいいのかというと、子供が休日に自然に起きられる時間と平日に起きている時間の差が目安になる。

例えば平日は朝7時に起こされているが休日は9時まで起きてこないのであれば、普段より2時間前倒しで就寝する。そして、休日・平日と同じ時間に起きるようにする。同じ時間に起きるのが無理でも、ズレはせめて1時間程度までに収めたい。

なお、休日に自然に起きてくる時間が平日よりも遅い子供は、普段寝不足になっている可能性が高い。そして、平日と休日の睡眠時間差が大きいほど脳と体へのダメージが大きくなる。特に、1時間半以上(大人なら2時間以上)の差がある場合は要注意。早急に生活を改善したほうがいいだろう。

遅寝の乳幼児には午前中の昼寝が有効な場合も(画像はイメージ)

まだ昼寝をしている乳幼児の場合は、どうしても遅寝遅起きになってしまうのであれば、いったん朝起こしたうえで、昼12時くらいまでに昼寝をさせてしまうという方法もある。

人間には目覚めてから約6時間後に眠くなるという性質がある。そのため、昼12時までに昼寝をすれば、夜の6時や7時頃までには眠気が来ることになり、早く寝られる可能性があるのだ。

夜型の子供は寝不足になっている可能性が高いため、午前中でも眠ることがある。困っているなら試してみる価値はあるだろう。

子供自身が“睡眠”を理解することも大切

朝型生活を守るには親の努力と実践が第一だが、長い目で見れば、子供に睡眠の重要さを理解させることも効果があるという。

福井県内の小学校では2007年度以降、日本眠育推進協議会の前田勉理事(NPO法人「里豊夢わかさ」理事長)らが良い睡眠と生活リズムについて指導した結果、進学先の中学校での不登校が激減したという実績も出ているという。この結果からも、睡眠指導により子供が自主的に健康を守る習慣が育まれたことがうかがえる。

「効果はそれだけにとどまらず、指導を受けた子供たちは高校進学後の成績の伸びも際立っており、先生たちも驚いたほどだったそうです」

子供の将来に大きな影響を与える生活リズム。今できる対策とともに、子供に睡眠の重要性を伝えることも大切なようだ。

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三池輝久(みいけてるひさ)
小児科医、小児神経科医。熊本大学病院長、日本小児神経学会理事長、兵庫県立リハビリテーション中央病院「子どもの睡眠と発達医療センター長」などを経て、現在は熊本大学名誉教授、日本眠育推進協議会理事長。子どもの睡眠障害の臨床および調査・研究活動は30年を超える。主な著書に『子どもの夜ふかし 脳への脅威』『赤ちゃんと体内時計 胎児期から始まる生活習慣病』(ともに集英社)ほか多数。

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