みなさんは、今の職場に満足しているだろうか。不満を持っていて、転職を考えている人もいるかもしれない。

では、みなさんが考える“いい職場”の条件はどのようなものだろうか。

「ハーバード成人発達研究」の4代目責任者であり、ハーバード大学医学大学院・精神医学教授のロバート・ウォールディンガー氏によれば、仕事を通じて幸せになれるかどうかは、「職場に親しい友人がいるかどうか」に左右されるという。

ハーバード大学医学大学院・精神医学教授のロバート・ウォールディンガー氏
この記事の画像(6枚)

「ハーバード成人発達研究」は、マサチューセッツ総合病院を拠点に、人々の健康と幸福を維持する要因を解き明かすことを目的として、1938年にスタートした。 

85年以上、2000人超におよぶ被験者の人生を様々な方法で継続的に記録・分析するという類を見ないスケールで、現在も続いている。 

この研究をもとに、健康で幸福な人生を送るために大切なことについてまとめたロバート氏らの著書『グッド・ライフ 幸せになるのに、遅すぎることはない』(&books/辰巳出版)は、30カ国以上で翻訳され、日本でも6万部超えのヒットを記録している。 

しかし、権威ある研究の責任者がそう言ってはいても、令和の時代では公私を分ける考え方が浸透し、職場で友達を作ることに抵抗がある人もいるだろう。

幸せになれる働き方とはどのようなものなのか。

職場に親友がいる人は3割

――『グッド・ライフ』には、ハーバード大学を卒業し、地位も給与も高い仕事についても仕事に不満がある人が大勢いる一方、ボストンの最貧困層出身で、学歴もなく望んだ仕事につけなかった人でも仕事に充実感ややりがいを感じている人がたくさんいるということが書かれていた。そしてその違いは「職場の人間関係」にあったというが、どれくらい重要?

それについては、米国の世論調査会社であるGALLUP(ギャラップ)が行った調査が参考になります。

ギャラップは、様々な年齢層・国に住む1500万人に対して職場でのエンゲージメント(組織に貢献しようという従業員の意欲)に関する調査を行っていますが、その中で、「職場に個人的なことを話せるような“親友”がいるか」という質問がありました。

結果、約30%の人だけが「会社に親友がいる」と答え、あとの70%は「個人的な話をできるような人は誰もいない」と答えました。

そして、「いる」と答えた3割の人たちは、幸福度が他の人たちよりも高かったのです。

それに加え、顧客対応がよくて業績は高く、離職や怪我をする割合は低いということがわかりました。

つまり、会社に親友がいる人は、会社にとって生産性が高い人材でもある。

職場に友人が「誰もいない」人の中で「仕事をしっかり取り組んでいる」人も少ない(画像:イメージ)

一方、「誰もいない」と答えた7割の人で、「仕事にしっかり取り組んでいる」と答えた人は12人に1人しかいなかった。

リーダーの立場からすれば、社員同士の仲がいいと生産性が落ちてしまうのではないかと心配するかもしれませんが、調査結果は逆でした。

ですから、会社も業績を上げたいのであれば、リーダーの人たちが率先して、会社で友達を作る文化を作っていくことが実は大切なんですね。

――日本では、友達を作るためにコミュニケーションを促進するよりも、報告・連絡をきっちり行い、目標を達成することが重視される傾向にある。

それを突き詰めていくと、マネージャーは奴隷監督みたいになっちゃいませんか。

――ちなみに、職場の親友とはどのような関係がいい?例えば、社外の友人のようにただ楽しく付き合えるだけでなく、仕事の建設的な話ができる間柄とか…。

“このような関係でなくてはいけない”と決めなくてもいいと思いますよ。外でも同じ友情があるかもしれませんし、社内だけの友情ということもあり得るでしょう。

重要なのは、「こんなことがあったんだ」「そういえばあれどうなったの?」といったたわいもないことを話したいと思えるような、その人がいるなら会社に行ってもいいなと思えるような友達関係であることです。

人間関係の問題には必ず対処して

――確かに、職場に一人でもそんな友達がいたら毎日が変わってくるかもしれない。同時に、職場の人間関係は選べないというのが難しいところ。人間関係が悪かったりパワハラがあったりした時、ロバート氏ならどうする?

同僚とうまくいかないとかパワハラがあるとか、人間関係の問題が離職の一番大きな理由ですよね。

私がその状況だったら、やはり上司に相談して解決策を考えます。そして、例えば会社の中で異動させてもらうといった打開策を講じるでしょうね。

人間関係に問題があるままで仕事を続けているといずれメンタルに来てしまいますから、必ず何か策を講じてその状況から脱することが重要です。

ロバート氏は「キャリアはゆっくりになっても子供と過ごすことが大事だった」と語る

――では、ワークライフバランスについてはどんなバランスがいい?

1日何時間の労働時間がいいという研究はないんですよ。

ただ、仕事をしすぎてあまり子供の顔が見られなくなるのも良くないし、仕事の時間が少なすぎて満足のいく成果が出せていないというのもいけません。

1日24時間の中で、プライベートと仕事の両方に自分なりにきっちり向き合えるバランスを取っていくことが大事だと思います。

私の個人的な経験を話すと、教授をしていますからいくらでも大学で時間を過ごすことはできます。

けれど、子供が小さい時は必ず毎日子供と過ごす時間を作りましたし、週末もほとんど子供と一緒に過ごしました。

そのために、私の教授としてのキャリアは同僚よりもゆっくりになりました。でも、私にとってはそこがとてもいい妥協点だったと思っています。

幸せになるには人間関係へ投資を

――職場の人間関係が人生の幸福度に大きくかかわることがわかった。そのような中で、私たちが今より幸せになるためには何ができる?

やはり人間関係構築に投資することですね。

投資といっても、人生を180度変えなさいということではなくて、小さなことを積み重ねていけばいいのです。

例えば人間関係をうまくやっている人は、仕事に行く途中で友達に「元気?」などと、テキストメッセージを送るとか、そういう小さいことをこまめに毎日、毎週やっています。

ですから、1人か2人、本当に仲のいい友達だけでも、毎週や毎月必ず連絡を取る。そういう小さな積み重ねが強い絆を生みます。

「何歳からでも友だちはできる」と話すロバート氏

――なるほど。ただ、年を取れば取るほどみんな仕事や家庭で忙しくなり、友達と疎遠になってしまっているという人も多い。

そうですね。それに加え、年を重ねていくと、小さい頃からの友達が亡くなってしまうということも起こってきます。

私も今年に入って昔からの友達を2人亡くしてしまいました。そういった関係を新しく補うことはできませんが、新しい友達を作ることは何歳からでも可能です。

ですから、積極的に他の人とかかわり続けることが重要だと思います。

年を取って歩くことが困難になったり、健康上の問題が出て来ることもあるかもしれませんが、可能な限りは趣味の集まりなどに行って、人と世界と繋がり続けてほしいですね。

『グッド・ライフ 幸せになるのに、遅すぎることはない』(&books/辰巳出版)

ロバート・ウォールディンガー
ハーバード大学医学大学院・精神医学教授。マサチューセッツ総合病院を拠点とするハーバード成人発達研究の現責任者であり、ライフスパン研究財団の共同創立者でもある。ハーバード大学で学士号取得後、ハーバード大学医学大学院で医学博士号を取得。臨床精神科医・精神分析医としても活動しつつ、ハーバード大学精神医学科心理療法プログラムの責任者を務める。禅師でもあり、米国ニューイングランド地方はじめ世界中で瞑想を教えている。

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。