久保田食品の「おっぱいアイス」=大阪市北区で2024年5月13日、川平愛撮影
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 丸くて先が細いゴム容器に入ったアイスは「おっぱいアイス」「たまごアイス」「風船アイス」などと呼ばれている。食べ方の面白さとクリーミーな味がユニークだけど、容器からアイスが勢いよく出てくることがあるのが難点だ。周囲に飛び散り「大惨事」になったことも。どうやったら上手に食べられるの?

「いごっそう」愛すればこそ

 ゴム容器入りのアイスはいろんなメーカーから売り出されている。容器の先の細くなった部分をハサミで切って、そこから吸って食べる。大人が食べるのは何だか恥ずかしいが、おいしさと懐かしさでつい手に取ってしまう。

 高知県南国市の「久保田食品」が販売しているのは、ずばり「おっぱいアイス」。パッケージに描かれたシロクマがかわいい。

「おっぱいアイス」の先端を切ると、アイスが出てくる=大阪市北区で2024年5月13日、川平愛撮影
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 1989年発売で、高知県民のおやつとしてテレビで紹介されたこともある、人気商品だ。

 それにしても、思い切ったネーミングですね。「赤ちゃんが、お母さんのおっぱいを吸うイメージで決めたと聞いております」と、武市学社長が明かす。おお、直球!

 創業者の久保田貢一さん(故人)が、社内はもちろん、奥さんや娘さんからの反対も押し切って命名したのだという。「創業社長は、高知で言う『いごっそう』(頑固)で、譲らなかったそうですよ」と武市さんが笑う。

次々と製造される「おっぱいアイス」=久保田食品提供
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 「おっぱいアイス」は当初、駄菓子屋を中心に販売された。さらに、取引先の要請で、バニラビーンズなどを使って質を高めた製品を開発した。駄菓子屋向けの「ラクトアイス」と、高品質の「アイスミルク」。2種類の「おっぱいアイス」を製造していたが、現在はアイスミルク1本にしぼっている。

 ところで、飛び出さないよう上手に食べるのは、どうすればよいですか?

 「(吸い口を)切ったら最後。集中して食べることです」と武市社長。合わせて、出る量が少なくなるよう吸い口の切断面を小さくしたり、容器をあまり押さないようにしたりするとよい、とのアドバイスも。食べている間は、アイスにきちんと向き合うことが大切なんですね。

 久保田食品は59年創業。久保田さんが、バイク1台でアイスキャンディーの卸売りから始め、徐々に取引先を増やしていった。その中で「自分が本当に食べたいと思えるアイスを作りたい」との夢を抱くように。10年近い試行錯誤の末に、80年から自社製造のアイスを売り出した。他社で経験を積んだ工場長が入社し、久保田さんのアイデアを具体化するのを支えた。

 目指したのは、大手メーカーではできない、少量多品種かつ高品質なアイスの開発だ。極力添加物は使わず、材料や製法にもこだわる。イチゴやヤマモモなど、高知県内で取れる果物を季節ごとに仕入れて、生のまま加工する。手作業の工程も多く、シーズンには従業員総出で製造することもある。

 1番人気の「苺(いちご)とミルクのアイスキャンデー」は、地元の農家から仕入れたイチゴを使う。「アイスキャンデー」と名乗りながら、アイスの種別で最も乳成分の濃厚な「アイスクリーム」ということにまず驚く。食べてみると、イチゴとミルクをそのまま食べているよう。すっきりした後味に、もう一度驚いた。

 「手しぼりの柚子(ゆず)アイスキャンデー」はその名の通り、1個ずつ、手で搾ったユズ果汁を使う。手間はかかるが、ユズのえぐみを出さないために欠かせない工程だ。「手搾りだけに、秋のシーズン前には筋トレに励んでくれる従業員もいます」と武市社長は話す。パッケージに書かれた原材料名はユズと砂糖だけ。シンプルかつ、力の入ったアイスですね。

 素材の良さを引き出したこだわりアイスを、約70種類も製造・販売している。口コミなどで評判が広がり、近年では高知はもちろん、全国に出荷されるようになった。それでも、実直にアイスに向き合う姿勢は変わらない。

 武市社長に夢を聞くと「高知で、こんなふうにアイスを作っているメーカーがあるよと、多くの方に知ってもらいたい。そして、これからもいいアイス作りをしていきたいです」と笑顔を見せた。子どもを思うお母さんのようなやさしさが、その胸に詰まっている。

後味さっぱり「アイスクリン」

「南国土佐のアイスクリンコーン」は、半球状のアイスがコーンに乗った懐かしい形。アイスクリンは高知の人気アイスだ=大阪市北区で2024年5月13日、川平愛撮影
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 久保田食品が、最初に手がけたアイスは1980年発売の「アイスクリン」だ。高知では広く愛されている「ローカルアイス」で、卵とミルクのやさしい甘さが特徴。食感はシャーベットのようにシャリシャリしており、後味はさっぱりしている。カップ入りのほか、バータイプや、高知の地鶏「土佐ジロー」の卵を使ったものもある。「南国土佐のアイスクリンコーン」は、半球状のアイスがコーンに乗った懐かしい形。南国の味、暑い夏に食べたいですね。【水津聡子】

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