性同一性障害特例法を巡り、性別変更する際に求められる生殖機能を喪失する要件(生殖不能要件)が昨年10月に憲法違反と判断され、さらに性器の外観を他の性に近づける要件(外観要件)について憲法適合性が争われている。同特例法の要件厳格化を求める提言をまとめた自民党の「全ての女性の安心・安全と女子スポーツの公平性等を守る議員連盟」の片山さつき共同代表が産経新聞のインタビューに応じ、性別適合手術などを受けずに戸籍上の性別を変更できる可能性について強い懸念を示した。
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客観性と持続性は「10年」の移行期間で
(生殖不能、外観要件を合わせた)「手術要件」が撤廃された場合、どうやってなりすましと峻別するのか。その完全な答えは得られていない。性別違和(性同一性障害)を訴える患者の診断症例が最も多い精神科医も議連の会合で「正確な診断が困難になる」と語っている。
岸田文雄首相が3月15日の参院予算委員会で(昨年6月施行されたLGBTなど性的少数者への理解増進法が尊重を求める)「ジェンダーアイデンティティー」について「本人のその時々の主張を指すものではなく、自分の性別についてのある程度の一貫性を持った認識を指す」と述べたように、ジェンダーアイデンティティーには「何らかの客観性と持続性が必要」というのが公式見解だ。
提言には、違憲と判断された「生殖不能要件」の規定に代わり、性別変更する要件に「一定期間(10年以上)継続して他の性別で社会生活を営んでいると認められること」と盛り込んだ上、従来通り、手術を受けるルートを残した。
(戸籍上の性別を変更するまでの)移行期間についての絶対的な基準は医学的に存在していない。日本は性別移行の症例が(同特例法が成立した)平成15年以降、約1万2800件といわれ、これらの症例の診断結果もデータベース化されていない。手術自体を望む人もいて、手術を受けても性別変更申請していない人もいることを知るべきだ。
特例法を改正するにしても、女性スペースを守る理念法のような議員立法の成立を優先するべきだろう。
マジョリティーの言論封殺すべきではない
「10年」に移行期間を設定したのは、今国会に政府が提出した(法案で創設する子供と接する仕事に就く人の性犯罪歴の有無を確認する)「日本版DBS」で、軽度の性犯罪を犯歴10年まで開示する法文などを手掛かりにした。
ドイツはかつて移行期間を「3年」としたが、つい最近年限を撤廃した。英国は「2年」としているが、女性の安全を確保する議連である以上、厳格な姿勢を示した形になる。これより短くても大丈夫というなら反証を示してほしい。
トランス女性には女性の格好で気持ちも女性だが、男性の性的機能を保ちながら、性的対象が女性である人もかなりいる。そこを悪用した性犯罪事例も出てきている。さらに、女性の側には自分たちの裸を異性から見られない尊厳・権利、盗撮されない権利がある。
性的マイノリティーについての配慮は当然だが、社会生活上みんなが上手く共生するにはルールが必要だ。不安や懸念を抱くマジョリティーの人が非難され、「ヘイト」の烙印(らくいん)を押され、発言が封じられる現状はあるべきではない。双方傷つかないように、丁寧に分類をすべきだ。
戸籍無力化される、国論に付すべき
そもそも、日本の法制は「父、夫=男性」「母、妻=女性」の仕様で成り立っている。手術要件が撤廃された場合、女性の生殖機能を保った「法的男性」が存在することになる。妊娠・出産すれば母親になり、戸籍上の男性が「母」の欄に記されることになる。
立憲民主党は戸籍から「父母」「親子」の区別をなくす「婚姻平等法案」を議員立法として国会に提出している。同法案のように民法の夫の記載を「男と限らない」、妻について「女と限らない」と書き直すのか。
戸籍が無力化される恐れがあるが、国会で議論されていない。民法の大改正に至る課題で、議員立法である性同一性障害特例法で派生的に議論すべき話ではない。国論に付すべき問題だ。正面から議論しないと極めて非民主的になる。にもかかわらず、手術要件が撤廃されれば何が起こるか、国民に論点が共有されているとはいえない。それはマスコミが報じないからではないか。(聞き手・奥原慎平)
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