特集は生ハムづくりに励む男性です。アメリカ出身で来日38年目の男性が信州に移住したのを機に生ハムの製造を始めました。本業は会社の社長ですが、地域の特産品にしようと挑戦を続けています。


■夏イチゴと相性抜群

彩り豊かなランチプレート。長野県茅野市のレストラン「アルジー」のメニューです。

サラダに添えられているのは生ハム。八ヶ岳山麓の野菜や夏イチゴと相性抜群です。


AlgAe オーナー・岡崎晶子さん:
「この辺で夏に採れるイチゴ、その酸味という部分とお肉(生ハム)の甘みの部分がとてもよく合うと思っています」


この生ハムも地元産。作っているのはー。

八ヶ岳トロバール ロバート・コーネルさん:
「熟成室の方ご案内したいと思います、こちらです」

大きな肉の塊がずらり。

こちらは生ハムの製造を行う「八ヶ岳トロバール」の熟成室です。

営んでいるのはロバート・アーサー・コーネルさん(59)。

茅野市内のホテルの一角を借り、3年前から製造を始めました。

八ヶ岳トロバール ロバート・コーネルさん:
「出来上がるまで包丁は入れられないので、期待を膨らませながら」


■本業は医療機器関連の会社社長

りゅうちょうに日本語を話すコーネルさんは、アメリカ出身で来日38年目。本業は医療機器関連の会社社長です。

なぜ、信州で生ハムを手がけるようになったのでしょうか?

コーネルさんの出身地はアメリカ・ワシントンDC。大学時代、父の仕事に同行して来日して以来、日本に引かれ、言葉や文化を勉強するようになりました。


ロバート・コーネルさん:
「(日本人は)相手に対する気遣いがあったり、古事記を読んだんですけど、国譲りの話に感動しまして、ずっと『日本は何か他と違うな』と思ったのはこういうのがあるんだと(納得した)」


大学卒業後、日本の製薬会社に就職し、営業畑を歩いてきました。

その後、転職し、医療機器のコンサルティング会社を立ち上げました。


■5年前に東京から移住 住まいは古民家

コーネルさんが大きな体をかがめて入ったのはー。

「ただいまー」


茅野市の自宅です。

ロバート・コーネルさん:
「これは明治27年にできた家」

5年前、東京からこちらの古民家に移住。妻の久美子さんと暮らしています。

後に、会社も茅野市に移しました。


ロバート・コーネルさん:
「今いるここが明治27年(建築)ですけど、2階も大正時代に建て増ししたので「お神楽方式」という」


記者:
「立派な柱ですね」

ロバート・コーネルさん:
「もう、何よりの肴です」


日本の歴史や文化に精通しているコーネルさん。移住してからは御柱祭に参加するなど地域の文化や自然に親しんできました。

妻・久美子さん:
「合ってるんだと思うんですよね。古事記とか源氏物語もすっと入っちゃう。よほど水が合ってるんだと思う」


元同僚だった妻の久美子さんにコーネルさんの性格を尋ねるとー。

妻・久美子さん:
「好奇心がとにかく旺盛。考える前に動いちゃうみたいな(笑)」


■最初は趣味のつもりだったが…

移住後、信州のさまざまな食材で料理を楽しむ中、コーネルさんの好奇心はその一つだった「生ハム」に向かいました。

ロバート・コーネルさん:
「八ヶ岳の吹きおろしがあるから、非常に乾燥した地域なので、食肉に適しているだろうと。ふたを開けてみたら、ここまで乾燥しなくても出来上がりますけど」


最初は趣味のつもりでしたが、今や立派な事業に。

きっかけを作ったのは郷卓也さんです。


郷さんは、東京・日本橋にあるフレンチレストランのオーナーシェフ。

コーネルさんは10年来の常連客でした。コーネルさんが郷さんに「生ハムを作りたい」と相談したのはコロナ禍の真っただ中。

店は厳しい経営を強いられていました。

そこでー。


■コロナ禍…新しいものにチャレンジ

ロバート・コーネルさん:
「『コロナ効果』というか、そういうタイミングこそ負けるなっていう、新しいものにチャレンジしたいと」

フレンチシェフ・郷卓也さん:
「あのタイミングだからこそ、チャレンジできたので非常に感謝しています。(実現できたのは)コーネルさんの勢いと情熱」

コーネルさんは飲食店や精肉店に掛け合い生産体制を整え、2021年、二人で本格的に生ハムづくりを始めました。


仕入れたのは放牧豚。6週間塩漬けにし、約2カ月乾燥させた後、熟成を進めます。

思惑通り、茅野の気候は生ハムづくりに適していました。


フレンチシェフ・郷卓也さん:
「生ハムは東京にいたら作ることができない。何回か試したが、おいしいものができない。生ハムだけは環境がとても大事」


八ヶ岳トロバールの生ハム。

郷さんのレストランはもちろんですが、地域の特産品になればと2023年から地元の直売所などで販売。


冒頭で紹介したレストランは得意先の一つです。(※生ハムの提供は不定期)

AlgAe オーナー・岡崎晶子さん:
「(地元に)加工品のお肉があるっていうのも楽しいですね、料理の幅が広がるし。安心して食べられるっていうところが一番おいしさにつながる」


■肉質の良い「セレ豚」

この日、2人は2023年、仕込んだ生ハムの原木5本を吟味しました。

ロバート・コーネルさん:
「おいしそう」

美しいピンクの断面。


ロバート・コーネルさん:
「(食べて)うん。おいしい」

フレンチシェフ・郷卓也さん:
「味も香りも十分。素材のポテンシャルがしっかり出ていますね」


吟味したのは、このうちの一つを6月16日、軽井沢町で開催される「生ハムフェスティバル」に出品するためです。


フェスティバルは国産生ハム協会の主催。全国から集まった生ハムを愛好者や業界関係者が堪能する場です。

3年目にして審査をクリアし、PRのチャンスを得たのです。

あとはどれを出品するかー。


最初に食べたのは、ブランド豚の「セレ豚」。納得の味に仕上がりました。

もう一つは「LYB豚」。口当たりがよく、脂のうま味が特徴的です。いずれも郷さんが信頼する静岡の養豚場から仕入れたもの。

ロバート・コーネルさん:
「本当においしいですね、この脂」


甲乙つけがたく、悩む二人。長時間悩んだ末にー

フレンチシェフ・郷卓也さん:
「今回はこちらのセレ豚で!」

肉質の良い「セレ豚」を出すことにしました。

八ヶ岳トロバール ロバート・コーネルさん:
「これはみんなにぜひ食べてもらいたいです」


■信州で新たな夢実現を

日本を愛し、日本で挑戦を続けてきたコーネルさん。移住した信州でも新たな道を切り開いています。

八ヶ岳トロバール ロバート・コーネルさん:
「(挑戦は長野に来たから?)間違いなくそうです。東京ではそこまで夢は持てなかった。まず茅野市の人たちが八ヶ岳トロバールの生ハム大好き、と思っていただきたいなと。そこから発展していきたい」

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