日本のホラー作品を題材にした授業を担当するアングルス教授。背後にあるのは「ゴジラ・ゴジラの逆襲」英訳本の表紙=村脇さち撮影

 私が昨年8月から留学している米国ミシガン州のウエスタンミシガン大学には日本語の学科があり、日本に興味のある学生が集う。今回は、ここで私が履修している授業の一つについて書きたいと思う。

ホラー作品を基にディスカッション

 この授業では、妖怪やモンスターなど日本のホラー作品を題材とし、作品の中に出てくる日本の社会問題や歴史などについてディスカッションする。「雪女」や「ゲゲゲの鬼太郎」などの昔話、漫画だけでなく、「ゴジラ」のような今もなお国内外の幅広い世代に愛されている映像作品も教材としている。

 この授業を担当するジェフリー・アングルス教授は、幼少期に叔父の家で日本人と出会ったことをきっかけに日本に興味を持ち始めた。そして大学や大学院で日本文学を専攻し、日本を何度も訪れた経験がある。

アングルス教授の授業をともに受けるクラスメート=村脇さち撮影

 2004年からこの大学で日本文学を用いた日本に関する授業を担当していたが、11年に東京大学の客員教授として日本に滞在していた際に東日本大震災を経験した。近年は同大震災や水俣病のような、日本の天災や公害に焦点を当てた授業を開講している。

 今学期は災害だけではなく、ホラーにもテーマを広げた形だ。生徒が言語からではなく、文化や風俗、実際にあった出来事から日本について学べる入り口を作ることを目的としている。

「ゴジラ」が描く戦争、核、災害

 筆者以外の学生は米国人だ。1月から始まったこの授業では、書籍や映像作品の中に出てきた日本の生活スタイルや日本の過去の映像技術についての知識を共有する。そうすることで、映像に出てくる日本語のセリフやかつての日本に存在していた男尊女卑的な生活習慣などについて、日本で生まれ育った筆者では気付かなかった疑問や意見が飛び交う。

 アングルス教授は「ゴジラ・ゴジラの逆襲」(香山滋著)の英訳を手がけ、その英訳本「Godzilla and Godzilla Raids Again」が昨秋出版されたばかり。授業でゴジラを教材とした際は、モンスター作品としてだけではなく、作品の背後にある戦争や核被害、震災被害といったテーマでもディスカッションを行った。

 筆者はこの授業で学ぶまで、これまでの数々のゴジラ作品の制作過程には、過去に起こった米国との戦争やその後の米ソ核軍拡競争、日本の震災や原発事故が関係していることを知らなかった。一方で、この授業と昨年秋に出版された「ゴジラ・ゴジラの逆襲」の英訳本についてアングルス教授が大学で行った講演会を通じて、過去に起こった日本との戦争について関心や注目している人が米国にも多いこと、そしてそんなゴジラが米国で愛されていることを知った。

節目の年のアカデミー賞受賞

授業では、日本の知識が豊富なアングルス教授が提供する情報を踏まえて、作品に関するディスカッションを行う=村脇さち撮影

 今年は、ゴジラが眠りから覚めるきっかけとなった1954年3月の米国によるビキニ環礁の水爆実験からちょうど70年。その節目の年に、最新作品の「ゴジラ-1.0」が第96回アカデミー賞で、日本の作品として初めて視覚効果賞を受賞した。

 このニュースにクラスメートのエイデンは、「率直にやった!と思った。この映画は昨年見て、ストーリーの中にあったいくつかの極端でドラマチックな展開に衝撃を受けたことを覚えている」と称賛してくれた。アングルス教授も「日本は優れた作品を多数作っているが、世界の人々全てが知っているわけではない。だから、これを機に多くの人に日本の作品を見るべきだぞと伝えたい」と喜んでくれた。

 また、アングルス教授は「現在この大学では、日本語がスペイン語に次ぐ2番目に多く学ばれている言語だ。米国には、日本人が思っているよりも日本に興味がある人が多い。だからこそ、日本の作品を用いたこの授業で、日本に興味を持つ学生に教えることは非常に楽しい」と話していた。

 日本を離れて日本について改めて学習し、それを米国人の学生と一緒に議論することで、私は日本についてもっと理解することの重要性はもちろん、疑問を意見として発表することの大切さを学ぶことができた。帰国後の日本での活動を通してこの経験を生かしたい。【米ミシガン州で村脇さち(キャンパる編集部)】

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