ハンセン病元患者の家族に対し国から支払われる補償金の請求期限が5年延長されることが決まりました。延長の背景にあるのは今も根強く残る偏見や差別、家族が置かれた厳しい現状を取材しました。

(ハンセン病元患者の遺族・60代男性)
「やっぱり自分にも家族があるので、家族には迷惑をかけることはできない。もちろん娘の旦那さんのご両親にも迷惑かかるだろう。私が実名公表し、顔を出してしまえば」

(ハンセン病元患者の遺族・50代女性)
「名前を出せないこと自体が、根深い差別が残っているということ。私は守らなければいけない家族、おびえながら暮らしている」

ハンセン病元患者の家族の声です。

元患者が受けてきた偏見や差別。家族もまた何十年もの間、苦しんできました。国の誤った隔離政策により、ハンセン病元患者家族も被害を受けたとして、家族が起こした国家賠償請求訴訟。2019年に熊本地裁は、国の責任を認める判決を下し原告が勝訴しました。

この判決を受けて国は、請求があった元患者家族に130万円から180万円の補償金を支払うことなり、その請求期限が、5カ月後の2024年11月21日に迫っていました。

(比嘉奈津美参議院議員)
「ハンセン病元患者家族に対する補償金の支給の請求期限を5年延長しようとするものであります。この法律案は、全会一致を持って原案通り可決すべきものと決定しました」

6月、請求期限を延長する法案が参議院で可決され、期限は5年後の2029年11月21日となりました。これまでに補償金を請求した家族の数は8494人。国が想定した2万4000人の3分の1に留まっていることが延長の大きな理由です。

瀬戸内市の国立ハンセン病療養所邑久光明園。5人のソーシャルワーカーが元患者と家族の間に立ち、補償金の請求手続きを進めています。

(ソーシャルワーカー・男性)
「(親族が)入所していた証明を発行したり、申請するまで一緒に電話でやりとりも」

(ソーシャルワーカー・女性)
「兄弟や親子であればすぐ戸籍で確認できるが、おい・めいになると同居要件が必要で、すごく時間がかかった。つい最近(補償金が)下りたよということで良かった」

園では、これまでに家族約370人の請求手続きをしました。しかし・・・。

(ソーシャルワーカー・男性)
「市役所に行って住民票・戸籍謄本もらう、職員に「何に使うんですか」と言われた時に、親族の中にはそう言われることが怖いし、声が詰まるという人もいる」

(ソーシャルワーカー・男性)
「事を荒立てないでほしいと言う人もいて、申請できていない家族や入所者もいる」

差別や偏見を恐れる家族に積極的な案内はできないものの、5年の延長には大きな意味があると、ソーシャルワーカーの坂手さんは話します。

(邑久光明園ソーシャルワーカー 坂手悦子さん)
「中にはもう請求しない、と心決めている人もいるが、その人たちが、気持ちが変わることもあれば、悩んでいる人たちがふと請求しようと思える時が来るかもしれないので、5年延びたのは大きい」

兵庫県尼崎市に住む黄光男(ファン・グァンナム)さんは、両親と姉が瀬戸内市の療養所に入所していました。ハンセン病家族訴訟の原告団で副団長を務めた黄さんは、今では、ハンセン病への理解を求める講演会を開くなど、偏見と差別の解消を目指して実名で活動しています。

(黄光男さん)
「ハンセン病は別に悪いことしているわけでもない、隠す必要ないんだけどね。180万円であってもぜひ請求して、僕たちの仲間に入ってほしい」

黄さんは他の元患者の家族と協力して請求期限の延長を国に陳情していました。

(黄光男さん)
「各自治体が延長したことをちゃんと告知し、こういう目的のために申請をぜひしてくださいというプラス一言の誘いの声はいる、それを頑張ってしてほしい」

(邑久光明園ソーシャルワーカー 坂手悦子さん)
「悩んでいる人たちがこの5年の間に家庭の事情や気持ちが変わったりして、請求が1件でも2件でも増えたらいい、あと5年延長になったので頑張りましょう」

坂手さんたちソーシャルワーカーは、請求の手続きは、隔離された元患者と家族をつなぐものだと考えています。

(光明園ソーシャルワーカー 坂手悦子さん)
「補償金の請求書の中に請求者ご自身の名前を書く欄もあるし、ご家族である入所者の名前を書く欄があり、その入所者のことを書く欄があって、補償金がきっかけで目には見えないが、(家族が)つながる一瞬があること。そこに救いを感じて、私たちは補償金もらってほしい」

(邑久光明園 青木美憲園長)
「ハンセン病で大変な状況に置かれた入所者・退所者、ご家族の皆さんから学ぶこと(が必要)ではないか。今もまだ偏見差別は厳然としてあって、家族の人たちは常にそういう状況にさらされて声も出せない状況、それが自分だったらどうなのかを考えることから始めるべきではないか」

期限は5年延長されましたが、家族がためらうことなく請求できる偏見や差別のない社会をつくることが求められています。

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