カルティエが東京国立博物館の表慶館(東京・台東)で「カルティエと日本 半世紀のあゆみ 『結 MUSUBI』展 ― 美と芸術をめぐる対話」を開催している。国内に最初のブティックを開いてから50年を記念し、日本と関係のあるジュエリーや財団が所蔵するアートなどを展示。クリエーティブ全般を統括するイメージ スタイル&ヘリテージ ディレクターのピエール・レネロさんに、カルティエのジュエリーが支持される理由を聞いた。
――今回の展覧会で伝えたいこととは。
「展示には様々なものがありますが、まずはその背景にあるストーリーを味わっていただきたい。それから、(日本に店舗を開いた)1974年以前から続くカルティエの旅路を味わってほしい。たしかに50年というのは象徴的な数字だが、通過点でしかありません。また、展示はアートですから、それを見て、喜びやうれしさを感じたり、感動してもらいたい」
――カルティエにおいて、ジュエリーとはどんなものと捉えていますか。
「非常に強い機能をもったオブジェだ。体の表面を飾るので奥深さがないと思われるかもしれないが、まずは希少価値がなければなりません。地球が生み出す、提供できる限りの最も貴重なメタルや石の組み合わせだ」
「ふたつ目はシンボルとしての機能で、ジュエリーを身にまとう意味合いが重要だ。(ジュエリーは、それを身につける)人の人生において、何が最も重要なのかということを表している。それは誰かへの愛着かもしれないし、社会的なポジションを表現するものかもしれないし、その人の思いとつながっている。あるいは、神様のような何か知られざる力とつながりたいという思いでジュエリーをつけているかもしれません。その人が考えるものとのリンクをジュエリーが作ってくれる」
「さらに、芸術的な価値もある。人が見て、どう感じるかというところに価値が生まれる。その結果、人はジュエリーを選ぶときに、自分では合理的に選んだと思っていても、実は非常に非合理的、つまり理屈ではない何かで選んでいる。長年この業界に身をおいて分かったことだが、とにかく合理的でない何かが魅力を訴えかけてきて、非合理な選択をしてひとつのジュエリーを選ぶ。過去には王や女王などがステータスを示すために、記号としてジュエリーを身につける必要があったが、現代では少なくなった。『私はこういう人間だから』と選ぶのではなく、頭で考えるのとは違う、心の何かで別のジュエリーを選んでいる。ThinkではなくFeelなんです」
――創業から180年近くになります。なぜ長きにわたって支持されるブランドになりえたのでしょうか。
「一言でいうと、信頼です。信頼は一夜にして築けるものではありません。築くことができたとしても、永遠に続くものではない。つまり、努力をしなければならない。信頼というのは獲得するものであり、そのために常に自分に厳しく、尽力している」
「クラフトマンシップにおいても、クリエイティビティーにおいても、やらなければいけないことは最高水準のものだ。伝統的なものを土台にしつつ、同時に新しさを探求し、ジュエリーに表現するのがカルティエ。今まで世界になかったようなジュエリーを10年ごとに展開していく。カルティエはそれをやり遂げるブランドであるということを信頼してもらっているのだと思う」
――3本の異なるゴールドリングがつながり合う「トリニティ」は今年が誕生から100周年。ほかにも長きにわたって愛されているデザインが多くあります。時代を超える普遍的なデザインとは何でしょうか。
「残念ながらレシピはありません。『これだ』と説明することが難しいので、トリニティを例に話してみたいと思う。トリニティは、3つのゴールドのリングが互いにつながりひとつのリングになっており、ミステリアスでマジカル。どうやって作ったのだろうか、どうやったらこんなふうにつながりあうのか、一見して分からない。どうして指にこんなにしっくりきて、動かすと転がり、一方でテーブルに置くと平らになる。魔法のように不思議なデザインだ」
「それから、ジュエリーとはシンボルですから、人が自分の思いや連想するものを投影する。トリニティはあまりにもシンプルなので、あらゆる投影ができる。これは両親との、子どもとの、兄弟との、あるいは恋人との、など、様々な意味のつながりを投影できる。色も同様で、3つのゴールドの色があるので、これは何の象徴で、こっちは別の象徴と、意味づけられる。シンボルの真骨頂といえるデザインだ」
「最後に、ジュエリーですから身につけやすいことも大切。朝昼晩いつでも、どこへでも付けていける。年齢に関係なく、ジェンダーレスで、男性、女性、それ以外でも、どなたでもつけられる。非常に現代的だ」
――今、新作を手がけるにあたってはどんなことを意識していますか。
「(トリニティについて話したようなことは)すべて検討している。お客様が求めることは常に変わってきている。ただ、変わらないこともある。それは、使い勝手がよいということ、飽きることなく長年、代々つけていきたいということ。そして、美しいものを身につけたいということ。何が美しいと捉えるかについては、時代とともに進化する。それに応えるために、カルティエはありとあらゆる美のカタチをいつも研究しているのです」
井土聡子
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