7月1日に山開きを迎え多くの登山客で賑わう富士山。危険な“弾丸登山”などを防ぐため、山梨県側の「吉田ルート」では2024年から新たなルールを設け、登山は予約制とし1日4000人に制限している。

こうした中、最近は半袖短パンといった軽装で入山する外国人観光客の姿が見られるが、春から夏にかけての富士山の気象条件はどういったものなのか。富士山特有の天候や登山に挑む際の服装の注意点について、上級登山インストラクターの栗山祐哉さんに聞いた。

富士山は天気が変わりやすい“独立峰”

ーー梅雨の時期の天気は?

梅雨の時期は梅雨前線の影響が出やすいです。気圧配置によっては風が強く吹いたり、突発的な雨が降ったりすることがあります。特に富士山は海に面した標高の高い独立峰なので、南東側から風が吹くと、海風が一気に斜面を上がり、周辺の御殿場や河口湖は晴れていても富士山の山頂だけは雨が降るという現象が起こります。

上級登山インストラクター・栗山祐哉さん
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富士山の天候はそもそも予測が難しいですが、春から夏にかけては特に変化が起こりやすく、日中と夜間の寒暖差が、プラス温度とマイナス温度になります。日中に雪が溶けてシャーベット状になったところが、夜間に凍結してアイスバーンになってしまうこともあります。

夏の登山は山小屋もたくさんあり、ルートも整備されているためそれほど難しい山ではないですが、変わりやすい気象条件には注意が必要です。

山開きを迎えた富士山

ーー独立峰と連峰では気象は違う?

連なっている山では風の乱れが発生します。しかし富士山は周りに山がないので風の影響を受けやすい上、きれいな円すい状のため、風は山の周りをぐるりと回り強風になります。

雪が多い時期は岩肌も雪で覆われてツルツルした表面になるので、風はより一層強く吹くようになり、厳冬期の1月、2月は日本国内でも特に難しい山の1つになります。

服装は“速乾性”の素材を

春から夏にかけて心配されるのが登山中の急な「雨」。乾燥している雪に比べて全身びしょ濡れになる危険性があるため、服装は“素材”が重要だという。ジーンズやコットンのような乾きにくい素材は低体温症を招くリスクが高く、“速乾性”のある服装が基本だと栗山さんは話す。

ーー夏も低体温症は起きる?

夏の方がむしろ低体温による死亡事故は多いです。冬山登山だと、かなりしっかりした装備で臨む人が多いのと、雪は基本的に乾いているのでビショビショに濡れることはそんなにありません。しかし夏山は雨が降るので、全身ずぶ濡れになることがあり、その状態で強い風に吹かれると、風速1メートルごとに体感気温は1度下がります。

気温5度の山頂や稜線上で、洋服が濡れた状態で風速15メートルの風が吹いた場合、マイナス10度の環境にいるのと変わらない状態になります。この状態ではあっという間に低体温症を引き起こします。夏でも山頂は寒く風が吹くので、状況によっては冬の平野部よりも夏の山頂の方が寒さの影響を受けやすいと覚えておいてください。

軽装で入山する外国人の姿

ーー外国人がサンダル、短パンで登山をしているが?

サンダルは足を怪我するリスクがあるので当然避けた方が良いですが、実は靴よりも服装の方がもっと大事です。速乾素材のハーフパンツ姿で登る人とジーンズの長ズボン姿で登る人がいた場合を比較すると、雨が降ったらジーンズの長ズボンを履いている人の方が早くに命を落とすと思います。

衣類の素材はとても重要で、ハーフパンツを推奨するわけではありませんが、絶対にダメとも思いません。一方、ジーンズで富士山に登ることは絶対にダメです。その感覚は登山経験が浅い人は掴めないと思いますが、ジーンズやコットンのような乾きにくい素材は低体温症を引き起こすリスクを増大させるからです。

ーー登山を楽しむための注意点は?

晴れの予報でも必ず雨具や防寒着を持参してください。標高が高いので気温は低いです。

そして、登山経験が浅い人は入門的な教科書を読んで、どういった行動が危険に結びつくかなど最低限の知識を身に付けた上で挑んでください。山登りは「深い自然の中に足を踏み入れる行為」なので、適切な服装や何を持って行けば良いかなど、しっかりとした知識を得た上で楽しんでください。

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