人と向き合って話していて相手の口臭に気づいた時、「自分は大丈夫?」と不安になることも。コロナ禍で一日中マスクをしていた頃は自動的にセルフチェックをしていたようなものだったが、コロナ禍が明け、相手に不快な思いをさせていないか気になる人もいるだろう。

「口臭はあらゆる人に起こることで、年齢や性別は関係ありません。においがなぜ発生するのかを知って必要なケアを習慣にすれば、口臭予防だけでなく、全身の健康につながります」と、内科医の桐村里紗さんは提言する。

口のにおいが体の健康に関係するとはどういうことか。口臭のチェック法と対策を聞いた。 

病気ではない「生理的口臭」

口臭には、『生理的口臭』と『病的口臭』の2種類がある。

まず『生理的口臭』は、ニンニクやアルコールなどにおいが強いものを食べたときと、何らかの原因で唾液が減って口の中の常在菌が増えたときに誰にでも起きる口臭である。

においが強いものを食べたり唾液が少なくなったりした時に出る口臭は、誰にでも出るもの(画像はイメージ)
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「人は1日2リットルほどの唾液を飲み込み、適度な殺菌効果のある唾液が口内の常在菌を洗い流すことで、口腔内フローラ(細菌の集団)のバランスが程よく保たれています。しかし、口呼吸やストレスで口が乾くと、口腔内の細菌が過剰に増えて『揮発性硫黄化合物』が増殖し、卵が腐ったようなにおいが出ます」(以下、桐村さん)

唾液は消化酵素として常に出ているが、ストレスがかかると交感神経が臨戦態勢になって唾液が減る。さらに女性の場合、閉経して女性ホルモンが減ると細胞の萎縮とともに唾液腺も委縮し、分泌が悪くなって口が乾きやすくなるという。

「病的口臭」ほとんどは歯周病が原因

一方、「病的口臭」は病気が原因で発生する。1つは、腸内環境と内臓機能の悪化に由来する。例えば、肉食中心の食生活で消化不良などが起こって腸内環境が悪化すると生ごみのようなにおいが出る。腎臓や肝臓機能が低下すると解毒作用が滞り、アンモニア臭が発生する。

そして、口や喉などに扁桃炎などの感染症がある場合、口腔がんや咽頭・喉頭がんなどの悪性腫瘍がある場合も、口臭が発生する

さらに歯周病由来の場合もあり、「病的口臭」のほとんどは歯周病から発生しているという。

「病的口臭」の原因のほとんどは歯周病だ(画像はイメージ)

「歯周病は、歯垢の中にいる歯周病菌が増え、歯茎の奥に入って炎症を起こす病気です。進行すると歯茎が腐り、強い腐肉臭がするだけでなく、歯槽骨(歯を支えている骨)が溶けて骨が抜ける原因になります。厚生労働省の国民調査では、初期段階も含めると35歳以上の8割が歯周病という結果が出ており、口臭の主な原因といえます」

歯周病は歯の磨き残しによる歯垢が主な要因だが、糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病や喫煙も影響する。

また、女性は妊娠中や排卵後に出るホルモン「プロゲステロン」が歯茎の炎症を促し、閉経後は炎症抑制作用のある「エストロゲン」の減少によって歯茎が炎症しやすくなる。
さらにエストロゲン自体もある種の歯周病菌を増やすことがわかっており、女性の場合は年代問わずリスクがあると言える。

口臭の認識とチェック方法

口臭から考えられる体の変化を理解した上で、まずは自分の口臭を確認したい。
しかし、臭覚は本来「敵を察知するためのセンサー」として働く機能。日常的に嗅いでいる自分のにおい対しては「馴化(じゅんか)」といういわば刺激への“慣れ”という生理機能が働き、無自覚という現象が起きるのだという。

自分では気づけないことも多い口臭には、口臭チェッカーや口臭外来の受診が有効

「口臭は身近な人に正直に教えてもらえるといいのですが、それが難しければ『口臭チェッカー』が便利です。また、口臭外来を行う歯科クリニックに行けば、腸由来、磨き不足、歯周病と3種類の口臭を測ってくれます」

口臭は主観的なものなので自分ではわからないと自覚し、知りたいときは必要なツールを使ってチェックしよう。

後編記事では、日頃からできる口臭の予防法を紹介する。

■後編記事はこちら
気にして“殺菌しすぎ”が口臭に?重要なのは口の中の“環境整備” 口臭のもと“歯周病”を防ぐ正しい口腔ケア)

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「臭い」もしや自分も?イヤ~な“におい”の撃退法

話をきいた内科医・認定産業医の桐村里紗さん

桐村里紗
内科医・認定産業医。tenrai株式会社代表取締役
(公財)日本ヘルスケア協会・プラネタリーヘルスイニシアティブ代表
生活習慣病から終末期医療まで幅広く診療経験を積み、予防医療の観点から臭いにも着目。口腔から腸内環境、地球環境までをつなぐプラネタリーヘルスを推進している。著書に『日本人はなぜ臭いと言われるのか 体臭と口臭』(光文社新書)他。ホンマでっか!?TVではにおい評論家・腸活評論家として出演するなどメディア出演多数。

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