特集は最後のにぎわいです。長野県塩尻市唯一の銭湯が6月30日、95年の歴史に幕を下ろしました。多くの惜しむ声を受けて銭湯は後継者を募集していて、30日も再開を願う声が相次ぎました。


多くの人がくつろぐ浴槽。タイル張りで昭和の面影を感じます。塩尻市唯一の銭湯「桑の湯」。95年、ずっと薪で沸かしてきました。

岐阜から大学生:
「気持ちいいです。きょう疲れていたので、とても気持ちいい。1人暮らしで狭いお風呂に入っているので、こういう広い所でゆったりできるといい」

多くの客を癒やしてきましたが、6月30日が最後の営業。

市内から(30代):
「せっかくだからと思って、子どもと一緒に。悲しいです、できれば長くやってもらってずっと来られたらいいなと思っていたので」


桑沢弘幸さん:
「ありがとうございました」

閉業を決断した4代目の桑沢弘幸さん(53)。30日も淡々と仕事をこなしていました。

桑の湯4代目・桑沢弘幸さん:
「残された数時間の営業なのですが、何事もなく、平穏無事に、通常通りの桑の湯のお風呂を皆さまにご提供できればいいなと思います」


桑の湯は昭和4年創業。製材業を営んでいた弘幸さんの曾祖父が廃材を活用し始めました。

桑の湯・4代目・桑沢弘幸さん:
「昭和の僕が生まれたころとか、その前はお客さんがすごかったみたいです。人数制限しなきゃ入れないくらいで」


3代目の父・英晴さんが亡くなってから弘幸さんと母・節代さん(80)が営んできましたが、2人の体力や設備の老朽化を考え、桑の湯を閉じることにしました。

母・節代さん(80):
「いつかはやめる時が来るだろうと思っていたので、その日が本当に来るんだなと。建物も傷んできましたし、だましだまし毎年傷んだところを直し直だけど、もう大変で…」


継続を望む声に胸を痛めてきた弘幸さん。地元企業から「後継者を探してみては」と提案を受けました。

桑の湯4代目・桑沢弘幸さん:
「閉業しか道がないと思っていた。いろいろな人のアドバイスで、こういうこと(後継者探し)ができると方針転換ができた」

企業の協力で6月から後継事業者の募集を始めたところ、これまでに3件問い合わせがあったそうです。(6月26日現在)

桑沢弘幸さん:
「なくすのではなくて、後を譲るということができる段階まで来まして、後を継いでいただければ、自分としては一番うれしい」


営業最終日の6月30日午後5時ごろ、雨にもかかわらず多くの客が詰めかけました。

市内から(70代):
「最後だというから来たの。寂しいね、せっかくこんなにいいお風呂あるのにね」


夕方、弘幸さんたちが休憩していると…

桑の湯4代目・桑沢弘幸さん:
「ちかちゃん、あらあらあら、ちかちゃん来てくれた」

近所に住む・内藤知花さん:
「きょうもいっぱい持ってきた」

訪ねてきたのは近くに住む内藤知花さん(8)。先日の取材時にも2人に手紙を書いてきた女の子です。

内藤知花さん:
「きょうもお手紙もってきたから、どうぞ」


30日も手紙や自作のメダルを持って来ました。

桑の湯4代目・桑沢弘幸さん:
「うれしい、ありがとう。95年の金メダルだ、ありがとう」

手紙を読み上げる弘幸さん:
「桑の湯さんへ きょうは最後の日で寂しいです。ここまで続けてくれて感謝しかありません」


内藤知花さん(8):
「さみしくなっちゃったけど、最後にお兄さんとおばあちゃんに会えてよかった」

母・節代さん:
「本当に天使みたいで、素直だしね、本当にかわいくて。『最後の日までファイト』って…」


渋谷美津子さん:
「190円ね、ありがとう」

番台に座る渋谷美津子さん(80)。10年前まで銭湯の向かいでカフェを営んでいました。誘われて3年前から番台に座ってきました。

渋谷美津子さん:
「お客さんも寂しがるけど、こっちも寂しいよと。本当にみんなの憩いの場だからね」


営業時間もあとわずか。節代さんも番台に座りました。

桑沢節代さん:
「きょうは2人、最後だから2人で番台」


隣の松本市から10年以上通い続ける江森俊光さん(52)。

10年以上の常連・江森俊光さん:
「息子が東京へ行って就職しているんですけど、この間、最後だからと帰省した時に寄った。番台のスタッフのおばあさんと記念撮影をして」


親子で思い出をつくり、最終営業にも江森さんだけで駆けつけました。

10年以上の常連・江森俊光さん:
「いつもより長めに入らせてもらったので本当に気持ちよかった。お世話になりました」

番台に座る・渋谷美津子さん:
「こちらこそお世話になりました。いい記念を残していただいてありがとうございました。息子さんにもよろしく言って」


午後10時、ついに閉店の時間を迎えました。

桑の湯4代目・桑沢弘幸さん:
「桑の湯を継いでくれる、塩尻の銭湯の灯を消さない方が必ず来てくれると信じています。その人たちが来ても変わらず桑の湯を愛していただきたいと思います」

母・節代さん:
「心から感謝申し上げます。ありがとうございました」


桑の湯4代目・桑沢弘幸さん:
「安堵の気持ちでいっぱいです。何事もなく、普通に銭湯をやれたことが一番の感謝の気持ちです」

母・節代さん:
「気持ちよくね、きょうの日を迎えられて良かったなと思って。(後継者の)新しい人たちには考えや思いがあると思うので、いい方向に進んでいけるように祈っております」

桑沢弘幸さん:
「母ちゃん、お疲れさま。今までありがとうございました」

母・節代さん:
「こちらこそありがとう」

桑沢弘幸さん:
「あしたからも元気で」

母・節代さん:
「あした、またシャッターを上げてしまいそう(笑)」

95年の歴史に幕を下ろした桑の湯。後を継ぐ事業者が現れるのを願っています。

桑の湯4代目・桑沢弘幸さん:
「ありがとうございました」

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