「ビリギャル」本人の小林さやかさん。留学していたニューヨークのコロンビア大学院を修了して、7月に日本に帰国した。

さやかさんに、2年間のニューヨークでの生活とキャンパスで得たもの、そして日本に戻ってこれから何を始めるのかを聞いた。

「人生変わりました。留学に行く前の自分が思い出せない」

――まずはコロンビア大学院の修了、おめでとうございます。2年間のニューヨークでの留学生活を振り返っていかがでしたか?

小林さやかさん:
ありがとうございます。いや、人生変わりましたね。もう留学に行く前の自分が思い出せないくらい変わっちゃいました。何より自信が持てたし、日本から外に出て日本を見られたのは、すごく大きかったですね。今の時代、YouTube等で色々見られるけれど、やはり知っているだけなのと実際に経験するのとでは、全く違うのを今回の留学で実感しました。

「人生変わりましたね。もう留学行く前の自分が思い出せない」
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――ニューヨークから日本を見てどんなことを感じましたか?

小林さやかさん:
まず感じたのは、日本人はものすごく真面目で完璧を追い求める国民性だということ。日本は失敗を恐れて、一歩踏み出すのがとても大変な社会であることを痛感しました。一方、ニューヨークの人たちを見ていると、常に自分の意思があって、誰の目も気にせずに、自分の人生は自分で舵を取る!という人が多い印象です。

――さやかさんは、自由に生きている感がありますけどね。

小林さやかさん:
私は日本人の中で、割とそう見られるタイプですけど、その私ですら、ニューヨークでは皆から「何を一体気にしているの?」と不思議がられました。これまで私は、他人からの評価や見え方を基に、自分の人生の選択肢を選ぶのを無意識にやっていたような気がします。だから今、何かから解放されたような気持ちですね。

「きつかったけど、お互い正しい選択ができた」

――ニューヨーカーは自分の個性に誇りを持っているし、人と違うことを大切にしますよね。

小林さやかさん:
ニューヨーカーは「You are so different(あなた変わっているね)」って言われると「Thank you」と答えます。つまり「他の人と違う」のは誉め言葉になるんです。日本だと「え、それってどういう意味ですか?」と、ネガティブに受け取る方が多いですよね。日本人は、皆と一緒でないと不安になるところがあります。ニューヨークにいて私は「別に一緒じゃなくていい」、むしろ「どう違いを出していくか」に価値をおけるようになったなと思います。

ニューヨーカーは「他の人と違う」が誉め言葉になるんです

――ところでさやかさんは、帰国前にSNSで離婚したことを公表しました。

小林さやかさん:
2年前に(元)夫が「俺もニューヨークに行く!」と会社に辞表を出して、一緒に渡米しました。「お互いの年齢的にも、留学と子どもを持つ計画は、同時進行でやっていこうね」という話を結婚前からしていたのですが、渡米2年目の夏に、夫が「やっぱり子どもは持ちたくないので、離婚したほうがいいかも…」と。
親として誰かを育てる経験をしたいという願いは、私にとって大きなものなので、半年話し合って彼の気持ちが変わらなかったため、離婚することに。これは正直かなりきつかったけど、今ではお互いにとって、正しい選択ができたと思っています。

「ビリギャルで一番伝えたいことが言語化」

――次は、コロンビア大学院の学びとキャンパスライフについて、聞かせてください。

小林さやかさん:
留学の動機は「ビリギャルの汎用性と解像度を高めたい」でした。ビリギャルを「もともとあいつは頭が良かった」という言葉だけで片付けられたら、子どもたちの未来が潰されると思ったからです。私だからできたんじゃなくて、誰にでもできることを抽出したいという思いがあって。認知科学を学ぶことでその目標は達成できたと思っています。

「ビリギャル」の著者で恩師の坪田先生と

――認知科学で、ビリギャルの解像度は、どのように高まりましたか?

小林さやかさん:
これは新著(※)にも書いたんですけど、受験勉強でもスポーツでも仕事でも、モチベーションをいかに維持できるかどうかが、一番の壁になります。モチベーションは意図的に維持しようとしない限り、時間が経つと次第に下がるものなので、そうなると「自分はやっぱり馬鹿なんだ」とか、「頑張れない人間なんだ」みたいに間違った思い込みをしてしまいがち。認知科学を学ぶことで、モチベーションをキープする法則や、親御さんの声かけなどの環境要因がマインドセットを作り、パフォーマンスにいかに影響するかを学べたので、ビリギャルで一番伝えたいことが言語化できるようになったと感じています。

(※)『私はこうして勉強にハマった』(サンクチュアリ出版)

「実際に行っちゃえばなんとかはなります」

――キャンパスライフは楽しかったですか?

小林さやかさん:
私は人が好きなので、友達がたくさんできたのはすごく良かったです。私って英語がそんなに得意ではないんですが、ネイティブのように喋れる子たちに混じって、誰よりも友達ができたので、言語はあまり関係ないんだなと(笑)。
同級生が色々な国から来ているので、違いを知るのがすごく楽しくて、お互いの国や文化の違いについて、ずっとしゃべっていました。基本的に新しいものが好きなので、見たことがない、聞いたことがないものに、ワクワクするのかもしれません。多様な友達が世界中にできたのは、一生の宝だなと思います。

「人が好きなので、友達がたくさんできたのはすごく良かったです」

――若い世代には、ぜひ留学や海外に行ってほしいですね。

小林さやかさん:
おすすめですよ。でもそうは言っても、留学ってハードルが高いですよね。私も行くまではやっぱり怖かったです。こんなに英語できなくて、大丈夫なんだろうかとか、友達ができるだろうか、なにか怖い事件に巻き込まれないだろうか、お金は大丈夫かとか、不安が大きかったです。皆さんが怖いと思う気持ちは痛いほど分かりますが、でも意外と、実際に行っちゃえばなんとかはなります。「やった人だから言えるんだろう」と思うかもしれないけど、やった人だから言えます(笑)。

「怖い気持ちはわかるけど、実際に行っちゃえばなんとかはなります」

――海外に出る際に日本人には「言葉の壁」がありますよね。

小林さやかさん:
ニューヨークにいる多くの人は英語ネイティブではないので、完璧な英語を喋っている人って、意外と少ないんですよ。完璧を追い求めて失敗を恐れる日本の文化は、世界を狭めている一番の壁だと今回すごく感じました。日本の義務教育は素晴らしいので、日本人の多くは英語を話すために必要な知識はもうすでに充分持っています。あとはマインドセットを変えるだけ。言語習得において「失敗したくない」「恥をかきたくない」というマインドセットは、本当に邪魔です。間違っていても伝われば良いやくらいのスタンスでアウトプットの練習を積めれば、英語は話せるようになります。

「大人のマインドセットを変えるビジネス立ち上げます」

――さて、帰国しましたが、ニューヨークに残るという選択肢は無かったのですか?

小林さやかさん:
修了式の前まではニューヨークに残ろうと考えていました。ただ、私がやりたいのはアジア圏の子どもの幸福度を高めることなんです。子どもたちがあまりに自信がなくて、自分の人生を自分で生きられていないのが、ニューヨークからよく見えたんですね。どうしてもアジア圏の子どもたちをエンパワーメントしたい。彼らがもっと自信を持って、自分に価値があると理解したうえで、より多くの選択肢を持って生きたいように生きられる社会にしたいというのが、“ビリギャル”として活動しながら抱いた願いです。そして、日本にいる方がそれができると思ったので、帰国しました。でもまたいつか、ニューヨークにも拠点を持ちたいですね。

「日本で大人を変えるビジネスを立ち上げます」

――以前帰国後どうするか聞くと「起業したい」と言っていましたね。いよいよ、立ち上げですか?

小林さやかさん:
日本ほど世界中に愛されている国って、ないんじゃないかなって思います。でも残念なのは、日本人自身がそのことを知らないということ。日本人はとても賢くて能力が高い民族で、世界に誇れて羨ましがられる文化を持っています。それなのに、こんなに自信を持てないでいるのは、ちょっと残念すぎます。子どもも大人も含めて、日本人がもっといきいき生きられるような社会にしたい。そのためには、まずは大人が変わらないと何も始まらないことに、認知科学を学んで気づきました。

――子どもではなく、大人を変えるビジネス?

小林さやかさん:
だから、大人向けの教育ビジネスを立ち上げて、大人のマインドセットを変えたいです。マインドセットは実体験でしか変えられません。大人が成功体験を積み上げることによって自然にマインドセットが変わっていく。それによって、周りにいる子どもたちの良きロールモデルになる大人を増やしたい。これ以上はまだ言えないけれど、いつか発表するのでお待ちください。

――ワクワクしますね。次のインタビューでは、ぜひその全貌を語ってください。

【執筆:フジテレビ解説委員 鈴木款】

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