今年度中の伐採が決まったことを受けて「桜通り」に設置された看板。感謝の言葉が記されていた=4月5日、大阪市港区(吉田智香撮影)

およそ60年前に沿道の住民らが苗木を購入して育ててきた、大阪市港区の桜の並木道「桜通り」がこの春で見納めとなった。桜の根が舗装を押し上げて通行の支障になっているだけでなく、台風による倒木被害なども続出。さらに住民らの高齢化で管理が困難となり、今年度中の伐採が決定した。住民らは最後となった花見を惜しみ、伐採する桜や新たな街路樹について模索している。

管理を担ってきた住民

「この2、3日で一気に咲いたね」。4月上旬のある日の午後、桜通りの愛称で知られる市道では、満開となった桜を見上げる人たちが言葉を交わしていた。真新しい制服に身を包んだ子供を桜の木の前に立たせ、記念写真を撮影する保護者の姿もあった。

大阪市港区役所によると、最初に桜が植えられたのは昭和38年。道路を管理する市は、病害虫がつきやすいため街路樹とすることに難色を示したが、住民らが費用を負担し責任を持って世話をするという条件で実現したという。43年には有志が寄付を集め、南北約800メートルにわたってソメイヨシノやサトザクラ約110本が植えられた。

こうした経緯から、沿道の住民らが剪定(せんてい)や害虫駆除剤の散布、落ち葉の清掃を担ってきた。見頃にはぼんぼりでライトアップされた夜桜も楽しめるとあって、身近な花見スポットとして住民らの人気を集めた。平成23年には、区内にある高潮被害を防ぐためのアーチ型の「安治川水門」などとともに市の都市景観資源に登録された。

毛虫への苦情も

だが、樹齢を重ねるにつれてさまざまな問題が発生。成長した桜の根で舗装が波打ち、歩行者がつまずく恐れが生じたほか、伸びた枝葉が信号や交通標識を見えづらくした。トラックの接触で枝が折れたり、近年の台風で倒れたりするトラブルも相次いでおり、葉が茂る時期には「毛虫を何とかしてほしい」という苦情も寄せられた。

桜の根によって盛り上がった道路の舗装。つまずくなどの危険性が指摘されている=4月5日、大阪市港区 (吉田智香撮影)

最初の植樹から60年近くが経過し、沿道の住民の高齢化や担い手不足で管理が難しくなったため、市は地元の意向を受けて令和4年度に北側の弁天地区の桜をすべて伐採。南側の磯路地区からも要望が出され、5年度には老朽化が目立つ25本を取り除いた。残る30本も今年度中に切る計画という。

伐採が決まった後、磯路地区の住民らでつくる桜並木の維持管理団体「桂音(けいおん)会」の会長となった孝岡正基さん(46)は「幹の内部に大きな空洞ができていた木もあった」と話す。

最後の機会に花見を楽しもうと、桂音会は3月31日に「桜まつり」を開催。歩行者天国にした市道にはキッチンカーが並ぶなど、大勢の人でにぎわった。

再生に向け、募金を呼びかけ

見頃を終えた桜は今年度中に伐採されるが、地元には「桜のある風景を残してほしい」という声もある。孝岡さんは、樹齢の若い桜を別の場所に移植することも検討しつつ、「害虫に強い種類の桜を新たに植えられないか」と提案。桂音会は、桜通りの再生に向けて募金を呼びかけている。

かつて満開となった際の「桜通り」。桜がアーチ状に咲き誇り住民らを魅了していた=大阪市港区(桂音会提供)

伐採後にどのような種類の街路樹を植えるかについて、港区の担当者は、地元にもさまざまな意見があるとしたうえで「勉強会やワークショップを開いて声を聞きつつ、方向性を決めたい」としており、官民による模索が続いている。(吉田智香)

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