糖尿病や高血圧症などの生活習慣病の重症化を避けるため、スポーツジムやフィットネスクラブなど運動施設の利用料を医療費控除できる制度がある。「人生100年時代」で老後の健康が一層重視されるなか、高齢化で膨らむ国の医療費を抑えることも期待されている。
この制度は、厚生労働省が平成4年から実施している。生活習慣病の患者が、厚労省の認定施設で運動療法を実施した場合、利用料を医療費控除として確定申告できるものだ。
医療費控除を受けるには、3つの条件を満たす必要がある。
①厚労省が認定する「指定運動療法施設」を利用する②高脂血症などの生活習慣病の患者で、医師が運動療法の処方箋を交付している③指定運動療法施設で週1回以上、8週間以上の運動を実施している
手続きはまず、かかりつけの医師などから運動療法の処方箋を交付してもらい、指定運動療法施設に提出する。運動療法後にもらう実施証明書などの書類を税務署に提出し、確定申告を行う。
数少ない指定運動療法施設
厚労省の調査によると、生活習慣病の患者数は全人口の約15%に上る。しかし、この制度はあまり利用されていないのが現状だ。
原因の一つに、指定運動療法施設の少なさが挙げられる。
厚労省が健康づくりのために認定した健康増進施設のうち、有酸素運動を安全かつ適切に行える運動型健康増進施設は全国に約350カ所(今年4月現在)ある。運動型のうち、さらに要件を満たした施設が指定運動療法施設で、約250カ所に過ぎない。自分の家の近所にないと利用しづらい。
指定要件には、施設の提携業務担当医が運動療法に関する知見を要する-などがある。これまでも要件は緩和されてきたが、施設にとってハードルは低くない。厚労省の担当者は「利用者に安心・安全に使ってもらうことが前提条件になる。認定要件もあり、急に増やすのは難しい」と話す。
「国民の健康づくり推進」
施設の数のほかに、この制度が国民に広く知られていないことや、運動療法に関心がある医師があまり多くないことも利用が広がらない要因となっている。
厚労省は今年1月、身体活動・運動はすべての国民が取り組むべき重要課題であるとして、「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」を公表した。担当者は「自治体や関係団体などに周知啓発を行うことで健康増進施設のさらなる普及を図り、国民の健康づくりを推進したい」と話している。(黄金崎元)
適切な運動療法が健康寿命の延伸に
順天堂大健康データサイエンス学部同学科長・特任教授 姫野龍太郎氏の話
日本人の平均寿命は年々延びているが、最近は日常生活が制限されない状態で、健康に生きられる「健康寿命」とセットで考えられている。厚生労働省の調査で、平均寿命と健康寿命の差は男性が8・73年、女性が12・07年というデータがある。
充実した後半生のためには、健康寿命を延ばすことが重要になる。加齢とともに筋力が落ちるので、今の健康状態を把握し、早くから歩行や運動習慣を身につけることが大きなポイントになる。
もちろん生活習慣病の患者も同様で、適切な運動療法は間違いなく健康寿命の延伸につながる。
糖尿病患者の中には、薬を飲んで食事をコントロールすれば、健康を維持できると考える人がいる。特に仕事をしている人はスポーツジムに通う時間があまりなく、食事のコントロールで数値を維持しようとするが、食事量を抑えるとタンパク質が減って筋力が落ち、ますます運動をしたくなくなる。
高齢患者の場合も、運動をしないと体力や気力、認知機能が低下するフレイル(虚弱)に陥り、さらに運動をしない-という負のスパイラルに陥る危険性が高まってしまう。
ジムに通う場合、1人だとなかなか続けられないので、誰かと一緒に楽しみながら運動するのが継続させる秘訣(ひけつ)だ。生活習慣病患者にとって、運動療法は老後の自立した生活を送るための有効な手段となる。
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