2025年に開かれる瀬戸内国際芸術祭(瀬戸芸)を前に、会場となる香川県の島々では夏休みシーズンの7、8月、さまざまな年代が対象の「アート塾」が開かれた。自身の感覚を言葉にしてみたり、身近ながらなじみの薄い島の歴史や実情を学んだり、理論的な問いを作品構想につなげたり。年代ごとの学びの場が徐々に広がっている。
大島で小中生サマースクール
国立ハンセン病療養所「大島青松園」のある大島(高松市)では8月2~4日、小中学生対象の「大島サマースクール」が開かれた。
高松市が2015年から開催し、新型コロナウイルス禍を挟んで今年で9回目。県内外から約20人が参加し、島の納骨堂や瀬戸芸作品を巡ったり、詩人のアーサー・ビナードさん(57)による詩作のワークショップを体験したりした。さらに、療養所で暮らす入所者の野村宏さん(88)が畑で育てたトマトを摘み取って食べさせてもらったり、浜辺で岩に付いた甲殻類のカメノテを採取したりと盛りだくさんの内容だった。
ビナードさんによるワークショップでは、参加者それぞれが耳を澄ませた島の生き物やものの「声」を言葉にしてみた後、個別にアドバイスを受けながら1人1編の詩を作って発表した。風と花との会話を「ジャーラジャラー」「サミサミー」などと独特な言葉で表した高松市立太田南小2年、冨永七帆さん(7)は「絵本みたいにしたかった」と話した。
ビナードさんは表現するということについて「音だったり、物語だったり、皆ひとりひとり違うものを持っている。一度、自分の中のもやもやしたものを(言葉にして)出してみると、出すルートを感覚的につかめるようになる」と話していた。
島々訪ねる高校生
高校生対象には香川県教育委員会が「瀬戸内アートサマープログラム2nd」を開催。今年が7回目で、同県内の13校から32人が参加した。
7月末のオリエンテーションでは瀬戸芸について北川フラム総合ディレクター(77)が講話。会期中、国内外から延べ約8000人が運営ボランティア「こえび隊」に参加していることを紹介しながら「3年に1回の開催年に限らず、縁ができていくことが大切」と話した。また、長谷川修一・香川大特任教授が瀬戸内海の地形の成り立ちなどを解説した。
参加した生徒たちはグループごとに五つの島を実際に訪ね、8月16日には香川県庁ホールで探求成果を発表した。
本島(同県丸亀市)を訪ねたグループは、両墓制や塩飽大工の歴史、現在行われている街歩きイベントを紹介。島を訪れてファンになってもらう方策として庭園造りやキャンプ場の設置などのアイデアを挙げた。
また、豊島(同県土庄町)を訪れたグループは「豊島のこころ資料館」で学んだ産業廃棄物不法投棄事件の経緯や、海外に輸出された中古車投棄の問題を紹介し、観光とは違う視点で滞在する島留学や、静かな環境で仕事ができるワーケーション施設の整備を提案するなど、グループごとに工夫を凝らして発表していた。
若手芸術家の育成も
瀬戸芸実行委主催の若手芸術家育成プログラム「瀬戸内アート塾」は昨年に続き2回目。7月後半に10日間の日程で行われ、香川県内外から20~38歳の18人が参加した。地域型芸術祭について北川総合ディレクターや瀬戸芸参加作家らが講義したほか、四つの島でのフィールドワークを経て、作品構想の発表・講評会が行われた。
昨年に続いて講師を務めた美術家の村山悟郎さんは参加者に「芸術におけるサイトスペシフィックという(特定の場所で成立する作品を構想する)考え方と、観光における地域資源の抽出とは異なるか?異なるべきか?」といった問いを投げかけ、思考を促した。
初めて参加した京都大3年、工藤由晶さん(23)は、約2000年前に人為的につくられたとされる女木島(高松市)の「鬼ケ島大洞窟」について、1914年に“発見”され桃太郎伝説と結びつけられて観光地化した経緯に着目。同年製作のイタリア映画を洞窟内で投影するなどして複数の時空間を交錯させる作品を構想し、「桃太郎伝説も当時はこの場所に(創造的に)付け加えられたものだった。そこにどう新たにフィクション性を導入するかを考えた」と話していた。【森田真潮】
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