最近、有機フッ素化合物(PFAS(ピーファス))が、千葉県柏市や鎌ケ谷市などの水路や井戸水から国の暫定指針値(1リットル当たり50ナノグラム)を大幅に上回る値で検出されたとのニュースを見聞きする。一体、この物質は何で、どんな健康影響が懸念されているのか。県内で調査にあたっている県水質保全課副課長の針谷謙一さんに聞いた。【柴田智弘】
――ずばり、どんな健康影響が懸念されているのでしょうか。
◆動物実験では肝機能などに影響を及ぼすことが指摘され、人に関してはコレステロール値の上昇、発がん、免疫系への影響などが報告されています。ただ、どの程度の量が影響を及ぼすのか、十分な知見はありません。国内では健康被害は確認されていません。
国は2020年、水道水について、PFASの代表的な物質であるPFOS(ピーフォス)とPFOA(ピーフォア)の合計値で1リットル当たり50ナノグラム以下を暫定目標値としました。これは体重50キロの人が毎日2リットル、生涯にわたって飲み続けても健康に悪影響がないと考えられるレベルです。県内の水道水はこの値を下回っています。
――誰でも入手できるものなのですか。
◆国内では10年にPFOS、21年にPFOAの製造・輸入が原則禁止され、いまは簡単には手に入りません。
この規制以前に製造された泡消火剤にはPFOSが含まれているものがあり、国が代替を進めています。今あるものについては、国の基準に従って保管と、漏れた場合の回収など厳格な管理が義務づけられています。
県内では海上自衛隊館山航空基地(館山市)が9月末までに、成田空港が24年度末までに処分を終える予定です。消防や海自下総航空基地(柏・鎌ケ谷市)には現在、PFOSを含む泡消火剤はありません。
――水質検査の結果が出るまでに時間がかかるようですが。
◆検査は水1リットルの中の1ナノグラム(10億分の1グラム)の物質を分析できる機器で行っています。分かりやすく言うと、小学校のプールに食塩3粒(0・3ミリグラム)を溶かした非常に低濃度の物質を調べるようなもので、緻密な分析が求められることから時間がかかります。
――これまでの調査状況は?
◆まず、国などが19、20年度に全国の空港や基地など泡消火剤を保有していた施設や製造実績のある施設などの周辺約170地点、県内では8地点で調査をしました。
20年に水質汚濁防止法の要監視項目に指定されたことから、21年度は同法に基づき、県が水道水源などの36地点と地下水69地点を調査し、柏市と白井市の境を流れる金山落(かなやまおとし)と千葉市の葭川で暫定指針値の超過がありました。
以降は、県と一部の市が調査しています。継続的に超過している柏・鎌ケ谷市などでは追加調査をしています。
――調査の狙いは何ですか。
◆水質汚濁防止法に基づく状況把握です。値が超過した場合の追加調査では河川の流れを確認して、排出源など超過している原因を把握する必要があります。現在は法規制がないことから、排出源となる事業者には「対策をお願い」します。地下水で値が超過し、飲用されている場合は飲用の中止などの指導を行います。
まだ健康への影響は分かっていませんし、発生源特定のための立ち入り調査への協力や、排出源が特定された場合の事業者による対策について法的な義務はないことから、国には対応を明確にしてほしいと願っています。県民の皆さんにはPFASについて「正しく理解して、正しく恐れてほしい」と思います。
PFAS
有機フッ素化合物の総称。自然界には元々存在しない、人工の物質。1万種類以上あるとされ、代表的なものがPFOSとPFOA。2000年代初めごろまでは、フライパンのフッ素樹脂加工や防水スプレーなどさまざまな製品に使われていたが、分解されにくく、人体や環境に蓄積しやすいことなどから、09年以降、国際的に規制が進み、現在では多くの国で製造・輸入などが禁止されている。国の食品安全委員会は6月、「通常の一般的な食生活では、著しい健康影響が生じる状況にない」と評価した。
はりや・けんいち
1967年、成田市生まれ。96年、県に化学職で入庁。2017年4月から現職。専門は工業化学。気象予報士の資格も持つ。
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。