「マイナ保険証 6つの嘘」という本が売れている。
著者は「哲学系ゆーちゅーばーじゅんちゃん」 こと 北畑淳也氏。

「便利にならない」、「医療の質は向上しない」、「コストが増える」など、これまでマイナ保険証について、政府がアピールしてきたことと「真逆」の批判を理路整然と説明してくれている。

病院の受診などに欠かせない健康保険証。従来のものはことし12月2日に新規発行の終了が迫り、原則としてマイナ保険証に切り替わっていく。

すべての人に身近で大切な問題なのに、まだまだ知らない所で話が進んでいる感がぬぐえない「マイナ保険証」。著者の北畑氏に詳しく話を聞いた。

■「マイナ保険証」に加えてもう1枚?「資格情報のお知らせ」とは

マイナ保険証が1枚あれば、とても便利になるというのは大間違いです。従来の保険証は、1枚持っていけば、どこでも受診できます。
しかしマイナ保険証はそうではありません。

今後、マイナ保険証の利用者の所へ「資格情報のお知らせ」という“A4サイズの紙”が送られてきます。
これには、氏名や生年月日、被保険者番号、負担割合、保険者名(どこの健康保険に加入しているか)などが書かれており、用紙の下側には、カードサイズの切り取れるものがついています。

これを切り取って、「資格情報のお知らせ」として、マイナ保険証と一緒に持っていかなくてはならないケースが想定されています。

つまり、保険証なら1枚で済んでいたのに、「マイナ保険証」と「資格情報のお知らせ」の2枚を持ち歩かなくてはならない可能性があるのです。

なぜこんなことになってしまったのでしょうか。

■マイナ保険証だけでは資格確認が出来ない?想定される事態

保険証は、医療機関が被保険者資格を確認(以下、資格確認)するためのものです。従来の保険証には、資格確認に必要な情報がすべて記載されています。

ところが、マイナ保険証は、カード自体には必要な情報のすべてが書かれていません。専用のカードリーダーと通信環境が正常に作動して、はじめて資格確認が出来るのです。

しかし、全国で約7000の医療機関が、様々な理由からカードリーダーを設置しておらず、マイナ保険証が使えません。

また、今月5日に千葉県保険医協会が公表した「マイナ保険証に関する調査」では、646の医療機関のうち、68%が「今年5月以降にトラブル・不具合があった」と回答しています。

つまり、カードリーダー設置の医療機関でも、マイナ保険証だけでスムーズに資格確認が出来ないことが十分起こり得るのです

■保険証を無くすため「”使いこなすのが難しい”アプリ」か「ペラペラの紙」が必要に

これまでは、マイナ保険証での資格確認が出来ない場合は、従来の保険証を提示すれば良かったのですが、今後、保険証はなくなります。

そこで厚生労働省は、こうした問題に対応するために「資格情報のお知らせ」という書類を、マイナ保険証の利用申し込みをしている被保険者全員に交付することを決めました。これが、“A4サイズの紙”です。

今年2月から、スマートフォンでマイナポータルアプリにログインすれば、「資格情報」を見られるようになりました。しかし、これがスムーズに出来る人がどれだけいるでしょうか。

マイナカードのICチップを読み込んでのログインは、少し揺れただけでエラーがでます。マイナポータルアプリの利用者登録数は約6400万人ですが、使いこなしている人はどれだけいるでしょうか。

おそらく多くの人が、紙の「資格情報のお知らせ」を窓口に提示し、本人確認をする必要が出てくるでしょう。

■結局社会的コストは増加か 「金と労力をかけて何がしたいの」

結局、ほぼ全国民が手元に保険証を持っているのに、それを廃止するために、改めて「資格情報のお知らせ」か、マイナ保険証を持たない人には「資格確認書」を送るわけです。

しかもマイナ保険証の有無に応じて、「この人には何を送るのか」仕分けする作業は、膨大な手間がかかります。可視化されないものも含めれば、社会的コストは相当なものになるでしょう。

そして、「資格情報のお知らせ(見本)」を見て、お気づきの方も多いと思いますが、書かれている内容は保険証と変わりません。「資格確認書」もそうです。

ならば、保険証をそのまま使えばいいのではないでしょうか。
金と労力をかけて何がしたいの?と言わざるを得ません。

その上、「資格情報のお知らせ」は、普通のA4用紙ですから、持ち歩けと言われても、すぐにボロボロになってしまうでしょう。

プラスチックのカードを作る議論も出ましたが、コストがかかりすぎるので、紙になりました。とはいえ、薄い紙のカードを持ち歩くのは無理がありますし、それ以前に、誤って破棄する人が大勢いそうです。そういった問題をどうするのか、昨年の夏から解決しておらず、持ち越しのままです。

問題が生じるたびに、厚生労働省やデジタル庁が行きあたりばったりで対応してきた結果です。もともと、これまでの保険証1枚が、マイナ保険証1枚に変わる目論見だったはずですが、やたらと複雑になってしまいました。

■相次ぐ「勤務先からマイナ保険証強制」の声 カード取得は任意のはずが…

最近、私のYouTubeチャンネルに寄せられるコメントで目立つのが、「勤務先からマイナ保険証を強制された」といった内容です。

気になってアンケートを実施した所、日本を代表する企業から小規模事業所まで、多くの企業が従業員に対し「マイナ保険証の強制取得」を迫っていることが分かりました。

「まだマイナ保険証の登録がお済みでない方に送っています。11月末日までにマイナ保険証の登録をお済ませください」といった通達から、「事業所の社長から直接、マイナ保険証を作るように言われました。組織にいる以上、従わないわけにはいきません」というもの。

そして、「12月以降、保険証は使えなくなると言われました」という誤った情報を会社から通達された人もいました。
(※ことし12月2日で保険証の新規発行は終了するが、最長1年間は利用可能。)

企業側がこういう対応をすることは、理解はできます。どちらか一方に集めた方が、管理が楽だからです。

企業としては、「マイナ保険証」と「資格確認書」の2種類が混在すると、誰がどちらを利用しているのか、分類する手間がかかります。扶養家族がいて、別のものを使っているケースなど、大変煩雑な作業となるでしょう。

マイナ保険証に統一して、全員に「資格情報のお知らせ」を送ればいいようにしたいハズです。

この件は、政府からの圧力といったやましいものではなく、純粋に管理コストを考えていると僕はみています。

ただし悪意はなくとも、結果的に特定の方向に誘導をかけています。そもそもマイナ保険証、マイナンバーカードの取得は任意なのですが。

■とある企業「マイナ保険証なし」なら「3カ月ごとに『資格確認書』発行」と説明

またある大企業は、「資格確認書」の使用期間として、3カ月の猶予期間しか設けていないそうです。

<ある大企業で社員向けに提示された文書より引用>
「資格確認書の発行について、本人からの申し出により3カ月間猶予のものを発行します。3カ月以内にマイナ保険証にすることが出来ない場合は、再度資格確認書の発行依頼をして頂くことになります」。

つまりこの企業の社員で、マイナ保険証を作りたくない人は、3カ月ごとに「資格確認書」の発行依頼をしなければいけないのです。会社員であれば在職中は更新手続きすらないものを、わざと不便にすることでマイナ保険証に誘導したいのかなと思うほどです。

現時点では、「資格確認書の有効期限を5年以内にする」ということしか決まっておらず、有効期間を3カ月に設定することが法令違反か否かは定かではありません。しかし、資格確認書を利用したい人にとって、大変不便なことになることは間違いありません。

マイナ保険証は、膨大な公費と人手を投入して、現状よりもユーザーの利便性を下げるという寓話のような世界を作りつつあるのではないでしょうか。

国民全員に関わることなのに、必要な情報がしっかり伝わっていない。マイナ保険証がどういうものなのか、この本を通じて一人でも多くの方に知って頂ければと思います。

(北畑淳也さん)

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