プチプチとした食感が特徴で、畑のキャビアと呼ばれている秋田・大館市特産の「トンブリ」。栽培農家、生産量ともに減少し、生産現場にとって厳しい状況が続く中、2024年度、約20年ぶりに新たな生産者が増えた。背景には生産組合の方針転換があったようだ。
「担い手不足」が課題に
大館市の特産品「トンブリ」は、2017年、国が地域の特産品として保護する地理的表示制度(GI)に「大館とんぶり」の名で県内で初めて登録された。
この記事の画像(11枚)秋田県民にとっては身近な食材だが、1990年度に130戸以上あった農家は、2023年度には5戸まで減少。生産量もかつては数百トン単位で推移していたが、2023年度は天候の影響もあり、20トン余りという結果に終わった。
大館市比内町の大館とんぶり生産組合の本間均組合長(71)のトンブリ畑。2023年は悲惨な状況だったが、2024年はたくさんの実が付いていた。
2023年は夏の記録的な暑さで虫が大量発生。全体の収穫量は前年の半分以下に落ち込んだ。
一方、2024年の生育は順調で、本間さんは胸をなで下ろすが、トンブリ栽培は気象の変化のほかにも課題がある。
本間さんは「みんな高齢化して辞めてしまうし、僕らもそうだけど担い手がいない。何年やれるか、この先分からない」とこぼす。
課題は「担い手不足」だ。その解決のため、最近になって生産組合は方針を変えた。
「門外不出」の栽培技術を継承
旧比内町の特産品だったトンブリ。その栽培方法は町内の生産農家だけが知り得る「門外不出」のものだった。しかし、担い手の減少を受けて、栽培技術をほかの地域の農家に伝えることにしたのだ。
その結果、2024年度に初めて比内地域以外から2人の農家が手を挙げた。
1人は市内の農家・因幡成弘さん(42)。因幡さんは10年ほど前に農家となり、コメやヤマノイモを栽培している。
因幡さんは「水稲だと面積をこなさないといけないが、畑だったらそこまで面積がなくても収入として安定できるかなというのもある」と話す。トンブリは価格の変動がほとんどないため、栽培計画を立てやすく、収穫できた分だけ収入につながる点を大きな魅力に挙げた。
一方、市出身の小畑祐真さん(23)はこの春農業を始め、トンブリの栽培を始めた。
始めた理由について、小畑さんは「トンブリ農家の数が減ってきていると聞いたので、ことしから農業始めるし、なくなってしまうのが悲しいなと思ったので始めた」と話す。
今シーズンは並行してアスパラやキュウリの栽培にも取り組んだが、その中でもトンブリは取り組みやすいようで、一人前になる日を目指して作業に汗を流している。
生産組合は2人をサポート
生産組合はそんな2人を、機材の貸し出しや技術指導という形でサポートしている。
本間さんは「栽培するにあたって苦労とか壁にぶつかると思うが、それは僕たちが協力して打開していかないと。1人でも2人でもこの先増えてもらえるように頑張りたい」と2人に期待を寄せている。
小畑さんは「周りに大先輩が多いので、その人たちに安心して任せてもらえるような農家になるために、技術や知識を身に付けていきたい」と話す。
因幡さんも「周囲の人や近所の人も作っているところを見たことがないが、『植えてみたいんだけど』という声はある。そういう人たちの見本になれたらいいのかなと。私が教えるのはおこがましいが、そういうふうになれたらいいと思う」と今後への意気込みを語った。
トンブリの収穫の季節はもうまもなく。伝統野菜の継承に向けた大きな一歩となるのか、生産農家の奮闘が続いている。
(秋田テレビ)
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