手話が語る福祉のコーナーです。9月、耳が聞こえない母親と聞こえる子供の物語を描いた映画が公開されました。聞こえる子を育てる聞こえない親の育児について取材しました。

(映画予告)
「・・・なんで俺が何回も話さなきゃなんねえんだよ」

9月に公開された映画「ぼくが生きてる、ふたつの世界」。主人公は、聞こえない親の元で生まれ育った聞こえる子供「コーダ」です。

(映画のシーン)
「おまえんちの母ちゃん、しゃべり方おかしくない?」

「今日、授業参観だったでしょ?何で言わないの?」
「お母さんに、来てほしくなかったから。耳がきこえないから」

両親から愛情を受けて育つも周囲から特別視されることに戸惑いやいら立ちを感じ始める主人公。成長するにつれて変化する「コーダ」ならではの心情が描かれています。

9月23日、岡山市北区のイオンシネマ岡山で手話通訳を入れた上映会が開かれました。上映会後に行われた舞台挨拶に登場したのは母親役を演じたろうの俳優、忍足亜希子さんです。自身も「コーダ」の娘を育てる親として、映画の撮影を振り返りました。

(観客)
「1番心に刺さったシーン、うれしかったセリフは?」
(母親役 忍足亜希子さん)
「大(だい・主人公)が15歳の時に本音が出る「なんで障害者の家に生まれたんだ」というセリフがあった。(自身も)母親としての複雑な思いをこらえながら演技をしていた。最後に、手話が恥ずかしいと思っていた頃からだんだん変わって、手話で話してくれたシーン、母親として喜んでいるシーンが印象に残っている」

忍足さんが演じた「コーダ」を育てる母親、聞こえる環境での子育てにはろう者ならではの苦悩があります。

備前市に住むろう者の岡村邦子さん。難聴の夫と育てる3人の子供はみんな「コーダ」です。

(岡村邦子さん)
「赤ちゃんの時は、泣き声を腕時計の振動で伝えてくれる機械を使っていた。離れている時は振動で泣いていると分かって抱っこしに行く、すごく助かっていた。きのうの夜は泣かなかったと思ったら充電が切れていたということも。見に行ったら泣いていた」

小学生の長女と長男が学校から帰ってきました。さっそく宿題の時間。音読の時は文字を指でなぞりながら読みます。

(音読している様子)
「ひとつたたくとこぶたいっぴき、ふたつたたくとこぶたがにひき、きゅうつ(九つ)たたくと、こぶたがきゅうひき…」

(岡村邦子さん)
「音読みと訓読みの間違いが分からない」

(おやつ食べている様子)
長女「(手話で)“だんご”できる?」
長男「できない!」
岡村さん「(手話で)できないではなくて、これを見て」

言葉の覚え方も「コーダ」の家庭ならでは。冷蔵庫には手話の指文字表が貼られています。小学1年の長男には少し手話が難しいようです。

(長男・6歳)
「(手話練習する?)無理無理!」

子供の成長につれ、岡村さんはさまざまな葛藤に直面しています。

(岡村邦子さん)
「料理をしている時、子供が突然話しかけてきて「聞こえるお母さんがよかった」と言われた。冷静になって理由を聞いたら、手話が難しいからと言われた。半分悲しかったけれど、いつか言われるだろうと覚悟はしていた」

学校や習い事でも周りは聞こえる親ばかり。親同士の会話が聞こえず、大事な情報を逃しているのではないかと不安に思う時があります。

(岡村邦子さん)
「1対1だとアプリなどを使って大体理解できるが、大勢が話しているとアプリにも限界があるので難しい」

小学3年の長女は手話が分かるので、通訳をしてもらうことがよくあります。

(親子の会話)
岡村さん「(手話で)バスに乗ってどこにいったの?」
長男「自然保護センター。しぜん、ほごせんたー」
岡村さん「?」
長女「(手話で)ほ・ご」

(長女・9歳)
「これが普通だと思ってる」

(岡村邦子さん)
「話しかけられたりした時はどうしても難しいので、娘に通訳をお願いする。全部子供達に頼むのではなくて、自分と夫のできる範囲は工夫してやっている」

そんな長女は母親とのおしゃべりが大好きです。

(長女・9歳)
「(Q:もっと手話勉強したいと思う?)思う!もっと両親としゃべりたいから」
「(Q:お父さんとお母さんのこと好き?)うん!大好き!」

ただ、通訳が子供の負担になっていないか、岡村さんは心配な気持ちもあるといいます。

(岡村邦子さん)
「もう少し大きくなった時に周りの目を気にして手話を堂々と使ってくれないのではないか、恥ずかしいと思うのではないかと思ってしまう」

映画では、母親に反抗していた主人公が久しぶりに公の場で手話で話してくれたことにありがとうと伝えるシーンがあります。

(岡村邦子さん)
「(子供には)自然体でいてほしい。理想は、子供も私も手話でコミュニケーションをとること」

これからも子供たちと聞こえない事や手話に対して堂々と向き合い続けます。お互いの気持ちを伝える「言葉」が親子をつなぎます。

「ぼくが生きてる、ふたつの世界」
(C)五十嵐大/幻冬舎
(C)2024「ぼくが生きてる、ふたつの世界」製作委員会

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