亡くなった人の髪の毛などを整える「エンディングカット」というサービスをご存じだろうか。ヘアカットやカラーリングにスタイリングなど故人に生前と同じ姿で旅立ってもらおうと取り組む美容師の思いを取材した。

美容師が“おくりびと”に

静岡市清水区のヘアサロンに勤める山下夕子さん。

山下さんは美容師であると同時に“おくりびと”としての顔も持っている。
納棺師の技術をもつ美容師、「納棺美師」だ。

山下夕子さん:
美容師はいっぱいいると思うが、納棺美師として(仕事を)できるのはなかなかない。故人の最後の瞬間に美容師として立ち会わせてもらえるのは、本当にすごいことだと思う

2024年7月。山下さんが訪れたのは焼津市にある村田実さんの自宅だ。

遺族が見せてくれた生前の写真を見ながら、山下さんは「耳元を出して少しすっきりめに。いつも右分けですかね?」などとヘアスタイルを確認する。

「髪を切りたい」病床の願い叶える

1カ月ほど前に病床に伏した村田さんは、生前「髪の毛を切りたい」と何度も話していたとそうだ。

そのため遺族がエンディングカットを依頼した。

山下さんは「寝た状態でのカットになり座っている状態とシルエットが変わってくるので、いつものカットよりも(髪の毛が)後ろに下がってしまうので、そこを意識して考えながらカットしている」と、エンディングカットで注意している点を教えてくれた。

カットを終えると次はヘアシャンプーだ。

頭皮をマッサージすることで表情が和らぐ効果があるといい、見守っていた遺族も手伝った。

シャンプーをする孫に、山下さんの同僚の納棺美師が「おじいちゃんの髪の毛を洗うことなんてないと思うから、不思議な感覚かなとは思いますが」と声をかける。

ヘアセットを終え山下さんが「髪型はどうでしょうか」と尋ねると、遺族たちは顔をのぞき込んで「お父さんだ」と喜ぶ。

最後にフェイスパックで保湿し、顔色をよく見せるためのメイクを施す。

村田さんの娘・池田千夏さん:
(父は)まめに髪の毛をカットして、白髪染めをせずにあの状態なので、すごくきれいだった。「やっとさっぱりした」って言っていると思う。最後に希望をかなえてあげることができて、きれいな姿で旅立たせてあげられてすごく良かった

「喜んでもらえることが一番うれしい」

山下夕子さん:
最後ずっと切れなかった髪をカットさせてもらって、「いつもの姿になった」と喜んでもらえることが一番うれしい

山下さんがエンディングカットに携わるようになって5年。

年を追うごとにやりがいは増していると話す。

山下夕子さん:
髪の毛は切るとすごく印象が変わるし、メイクも当然だが髪の毛でもこんなにきれいになると伝えられる、そしてそれをやらせてもらえるということで、すごく今充実している。すごくいい仕事だなと思ってやらせてもらっている

旅立ちの時まで生前と同じ美しさと凛々しさを。

山下さんはその思いで、今後もエンディングカットに向き合っていく

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