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<増加する摂食障害の背景には家庭内外からの影響も>

摂食障害は米国精神医学会が発刊する「精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM)」や世界保健機関(WHO)が定めた「疾病及び関連保健問題の国際統計分類(ICD)」に精神科疾患の1つとして分類されている摂食障害。

摂食障害は大きく、食べないこと(神経性無食欲症)と、食べ過ぎる(神経性過食症)ことの2つに分けられており、女性が男性の約10倍と、圧倒的に女性に多い病気となっている。『児童精神科医が教える こころが育つ! 子どもの食事』(CCCメディアハウス)の第1章「『普通に食べる』が難しい子どもの存在」より一部抜粋する。

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近年、思春期年齢の女子で発症する例が増えていると言われています。その症状が持続した場合、将来、妊娠したり、出産したりする際には、子どもに深刻な影響を与える可能性があります。

15歳の日本人女子であれば平均身長の157㎝で、体重51㎏程度が適正と言われますので、摂食障害が懸念される体重は、おおよそ42㎏以下となります。

摂食障害の原因はいくつか考えられますが、その一つが親子関係です。

その中には母親の食行動に関するものもあります。もし妊娠中の母親が摂食障害であれば、母体は栄養不足の状態です。

ある論文(2014)〈※1〉によりますと、摂食障害の母親から生まれた子どもは、発達の遅れや大病、排泄の問題、精神的な問題、被虐待経験が有意に高かったと報告されています。

また、子どもは母親の行動を模倣しますので、母親の食行動も模倣する可能性があります。

ある女優は雑誌のインタビューで、体型の維持について悩んでいた15歳のときに母親から、「吐けば太らないから、吐けばいい」と言われたのをきっかけに摂食障害に陥ったと語っています。母親も過食嘔吐を伴う摂食障害でスリムな体型だったそうです。

これは摂食障害とは異なりますが、第二次世界大戦中にナチスドイツに支配されていたオランダでは、深刻な食糧不足となり「オランダの飢餓」とも言われました。

現在もその影響が追跡調査されていて、そのとき母親が飢餓状態で生まれた子どもは、成人になると肥満や糖尿病、統合失調症などを発病する率が高まっていることが報告されています。

母体の受けた身体的・精神的な影響が子どもの身体や心の健康状態にも影響を及ぼすのです。

ただこれらを逆手にとれば、つまり母親の食習慣や摂食障害への支援をすることで子どもへの悪影響を最小限に抑えることができると言えるかもしれません。Monteleoneほかの研究(2022)〈※2〉は、摂食障害のある母親が適切なサポートを受け、病状の管理や回復に向けた取り組みを行っている場合、子どもにもポジティブな影響があると報告しています。

このことは、母親が健康的な食習慣を持つことで、子どもがいいモデルとして模倣することを示しています。

ただ母親の食行動に大きな問題がなくとも、SNSや学校の同級生から浴びせられた一言など、家庭外の影響を受け摂食障害につながることもあります。

「モデル体重」や「シンデレラ体重」といった言葉がありますが、それらの言葉が示すBMIはだいたい17~18とされています。神経性無食欲症のBMIは17以下が目安ですので、ここで示されるモデルの例の多くは摂食障害に近いレベルと言えるでしょう。

そんなモデル体型の女性を思春期の女の子たちは羨望し、自分は太っていると錯覚して摂食障害に至ってしまう可能性もあります。


[注]
〈※1〉https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpm/54/4/54_KJ00009296713/_pdf
〈※2〉https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36084848/

宮口幸治(みやぐち・こうじ)
児童精神科医・医学博士。立命館大学総合心理学部・大学院人間科学研究科教授。京都大学工学部を卒業し建設コンサルタント会社に勤務後、神戸大学医学部を卒業。児童精神科医として精神科病院や医療少年院に勤務し、2016年より現職。医学博士、子どものこころ専門医。一般社団法人日本COG-TR学会代表理事。著書に『ケーキの切れない非行少年たち』、『どうしても頑張れない人たち』(いずれも新潮新書)、『境界知能の子どもたち』(SB新書)などがある。

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 宮口幸治[著]
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