11月8日は語呂合わせで「い(良)い歯の日」。健康な歯に欠かせない咀嚼(そしゃく)力の低下が指摘されて久しい。よくかむことで消化を助け、唾液の分泌が促される。虫歯や口臭の予防になるほか、最近の研究では体全体の健康維持や美容など、かむ力のさまざまな効果が分かっている。「かむ」ことの大切さが、見直されつつある。
公益社団法人の日本歯科医師会(東京都千代田区)に「いい歯」の条件を聞いたところ、虫歯や歯周病などがなく歯の本数がそろっていること、さらに「上下の歯でしっかりかめるなどの口腔(こうくう)状態が保たれていることも大切」という。
現代人の咀嚼力は低下している。日本人のかむ回数を比較研究した「料理別咀嚼回数ガイド」によると、1回の食事の平均回数は、弥生時代3990回、江戸時代(前期)1465回、戦前(1930年代)は1420回だった。これに対し、現代は620回に急減。食べ物が軟らかくなり、少ない回数で飲み込めるようになったことが主な要因だ。
90年代にこのガイドをまとめた和洋女子大の柳沢幸江教授は、2022年にロッテなどと共同で「咀嚼回数ランク表」を新たに作成。それによると、10グラム当たりの飲み込むまでの咀嚼回数が多い食品は、「さきいか」(158回)や「馬肉ステーキ」(114回)などがある。最多は「チューインガム」(5分かんだ場合)の430回。柳沢教授はチューインガムを「食事以外の咀嚼手段として取り入れていくのも有効」と話す。
チューインガムは長らく生産量が減少傾向にあった。日本チューインガム協会の統計では、市場全体の生産数量は04年から約20年で4割程度に減り、特に新型コロナウイルス禍による落ち込みが目立った。ロッテホールディングス(HD)の広報担当は「対面機会が減り、衛生対策としてガムをかんでいた人の需要が減ったのでは」と分析する。
かむことの効用は多い。歯茎や顎(あご)の骨を丈夫にする▽血流がよくなり、脳が活性化される▽セロトニンの分泌を高め、ストレスを和らげる▽集中力やリズムを整え、スポーツ時のパフォーマンスが向上▽輪郭が引き締められ、見た目が変化する――などが挙げられる。
こうした効果が広く伝えられるようになり、以前は「暇つぶし」のアイテムだったガムが、「健康を気遣う人に支持されるようになってきた」(ロッテHD担当者)という。23年の生産量は、前年比6・3%増に持ち直している。日本チューインガム協会によると、24年も市場の回復傾向は続いており、ガム人気が復活しつつあるようだ。【嶋田夕子】
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