特集は20歳のルーキーです。長野県小諸市の小諸城址懐古園を巡る人力車。それを引く「車夫」として20歳の女子大学生がデビューしました。車夫を目指した理由と奮闘ぶりをお伝えします。
■初の“女性車夫”としてデビュー
木々が色づき始めた秋の「懐古園」。園内を巡る人力車をさっそうと引くのは車夫の新(あたらし)衣梨花さん(20)です。
車夫・新 衣梨花さん(20):
「乗る前と乗った後とで、お客さまの表情がちょっと明るくなっているときはすごく単純にうれしさを感じます」
新さんは20歳の大学生。
懐古園で人力車を運行する「きらく屋」のアルバイトとして採用され、初の女性車夫として10月、デビューしました。
■体調崩し…心を休めたい
新さんは広島県出身。2023年、都内の大学に進学しましたが環境の変化もあって体調を崩しがちに。
2024年1月から長野市の伯母の家で休養し、大学は1年間、休学することにしました。
そんな新さんがなぜ車夫に?
車夫・新 衣梨花さん(20):
「人力車の某大手の創業者さんが書かれた本がありまして。『今の時代に失われつつあるものを大事にしている』という箇所に感銘を受けました。私もそういうせせこましい日々にやられちゃった(体調を崩した)部分があったので、少しふっと気をとめて周りを一度見渡してみる、そんな余裕を提供できるような人力車に魅力を感じました」
■「厳しいところに来てしまった」
体調が落ち着いた7月、新さんは、知人から教えてもらった懐古園の「きらく屋」を訪ね、代表の喜楽屋笑太さんに直談判。
車夫・新 衣梨花さん(20):
「私は単純に、率直な気持ち『引きたいんです』という気持ちを伝えただけ」
きらく屋 代表・喜楽屋笑太さん:
「まず正直な気持ちとしては驚きました。やる気とそしてこの天性の愛嬌があり、人力車夫としてはものすごい素質を感じたので、こっちも一生懸命育ててやろうとそんな気持ちになりました」
熱意が実り、繁忙期の秋限定のアルバイトとして採用されました。早速、練習を始めましたが。
車夫・新 衣梨花さん(20):
「ちょっと厳しいところに来てしまったなっていうのが第一印象ですね。坂を登りきることもできずこれは私、出る幕がないじゃないかと、ちょっと絶望した記憶はあります」
■パワー不足…筋トレを開始
人力車の重量は80キロ。園内は坂も多く、「パワー不足」が露呈します。
そこでー。
車夫・新 衣梨花さん(20):
「車夫はお尻を使って坂を上るので」
筋力トレーニングを開始。下半身を鍛えるスクワットに、腹筋、腕立ても毎日。
車夫・新 衣梨花さん(20):
「(人力車を)引ける範囲が確実に広がってきているので、変わってきていると思います」
2カ月に及ぶ筋トレの成果で、10月、車夫として、デビューすることができました。
■何かを成し遂げられた
車夫・新 衣梨花さん(20):
「体調を崩して休学してたっていうのもあって、かなり心情的にはちょっと辛い部分が多かったんですけれども、その中でも何か成し遂げられて本当に良かったと、うれしい気持ちでいっぱいです」
現在は、園の入り口にある急な坂以外は大人2人を乗せて進めるようになりました。
記者も乗せてもらいました。
(記者)
「80キロぐらいあるんですけど、大丈夫ですか」
車夫・新 衣梨花さん(20):
「大丈夫ですよ、頑張りますから」
入り口の急坂も大人1人なら。
車夫・新 衣梨花さん(20):
「よっしゃ、えいさっ、えいさっ」
(記者)
「ぐいぐい進んでいきますね」
車夫・新 衣梨花さん(20):
「人力車は初めてということですが、乗り心地はいかがですか」
(記者)
「非常に風が気持ちいいです」
車夫・新 衣梨花さん(20):
「醍醐味です」
(記者)
「目線が高いのが普段とは違う景色で」
■客「きゃしゃな体でも力強い」
きらく屋 代表・喜楽屋笑太さん:
「紅葉が色づいてくると、どこが見栄えがいいか、車夫目線で見えてくる」
懐古園はこれから紅葉のピーク。観光客におすすめの撮影スポットを案内するのも車夫の大事な仕事です。
きらく屋 代表・喜楽屋笑太さん:
「これイチョウなんだけど、半月もすればまっ黄色になるので、イチョウバックがめちゃくちゃ絵になるから」
取材したこの日は、関西からのツアー客を乗せ、園内を回りました。
車夫・新 衣梨花さん(20):
「お城が街よりも低いんです。街から見るとお城が穴のようだということで、『穴城』と言われている」
懐古園の解説はばっちりです。
車夫・新 衣梨花さん(20):
「自然石をそのまま用いているのが特徴。安土城の石垣も担当した、日本で一番の石工集団・穴太衆が建てた石垣」
未舗装の場所もスイスイと。ツアーは約30分。
最後は歌で締め括ります。
車夫・新 衣梨花さん(20):
♪「上を向いて 歩こう~」
戦時中、小諸に疎開した永六輔さん作詞の「上を向いて歩こう」を。
客はー
兵庫から:
「説明もうまくて、安定もしていて、楽しい時間を過ごせた」
「きゃしゃな体でね、でもしっかりと力強く。『えいさ』って言って頑張って、頼もしかった」
大阪から:
「優しくて、楽しくて、にこにこしてはって、楽しかったです」
■師匠「愛嬌とトーク力が武器」
「師匠」はー
きらく屋 代表・喜楽屋笑太さん:
「今は本当にもう一人でも任せていいぐらい安心して引けるようになりましたね。愛嬌とこのトーク力、これは教えても教えられるもんじゃないんですよね。だからこれは最強の武器です、彼女の。会う人みんながファンになる」
■心地よく抜ける風が気持ちいい
貴重な経験を重ねる新さん。来年の春には復学する予定です。「車夫」を務めるのは「紅葉まつり」が行われる11月17日まで。残りの期間、全力で駆け抜けるつもりです。
車夫・新 衣梨花さん(20):
「目線の高さ、車夫さんとの距離感、そして私は何よりもこの心地よく抜ける風、これが単純に気持ちよくていいなと。懐古園の秋、私まだ一周目です。フレッシュな視点で、ぜひたっぷりお届けできたらと思いますので、皆さんをお乗せできるのを非常に楽しみにしております」
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