求肥をバカ貝の斧足に見立てた富津の名物「バカ最中」=千葉市中央区で2024年10月30日午後5時59分、田中綾乃撮影

 まるで子供の悪口合戦のような名前の和菓子だが、「バカ」はかつて富津の海でよくとれた「バカ貝」に由来する。

 富津岬や富津海水浴場から車で10分もかからない住宅街にある野口製菓(千葉県富津市)は、1943年に和菓子卸業として創業した。今は洋菓子も作る工場直売の老舗菓子店で、工場併設の店舗には地域の人の客足が途絶えない。

 同店の一番人気が、今や富津名物となっている「バカ最中(もなか)」(税込み220円)だ。貝殻を模した皮に北海道産の小豆を丹念に炊いた粒あんをたっぷり挟み、べろのような貝の足・斧足を求肥で表現するなどバカ貝に似せている。しっかりとした甘さの粒あんに、ぎゅうひのもちもちした食感がアクセントになって食べて楽しい。

 バカ貝は海を浄化する作用を持ち、食用にもなる。現在はほとんどとれないというが、かつては富津の海近辺ではたくさんとれた貝だった。

「バカ最中」が名物の野口製菓の野口秀明さん=富津市で2024年10月28日午後4時15分、田中綾乃撮影

 一方で、「バカ最中」のデビューは2015年と、意外と新しい。生みの親で野口製菓の菓子職人、野口秀明さん(43)は「はじめからバカ貝の菓子は念頭になかった」と誕生秘話を明かす。同年ごろ、富津の主要レジャーである潮干狩りからヒントを得て、皮を一般的な貝殻に似せたもなかを「潮干狩り最中」として売り始めた。ある日、バカ貝の砂を抜く「むき子」の女性がその最中を見て「これはバカ(貝)だね」と指摘したことをきっかけに、「ならもっとバカ貝に似せてやろう」と特徴である斧足をつけ、「バカ最中」に改名して売り始めた。

 ただの貝を模した最中より「バカ貝」にこだわったのは、野口さんの「土地柄をお菓子に反映させたい」という強い思いもあった。野口さんは高校卒業後、料理の修業を積む中で、ヨーロッパの食文化がその土地の食材をうまく使っていることを学んだ。実家に戻り、「その土地にしかないものを使えば特徴になる」という考えを抱くようになった。

 既に「切腹最中」といった名前の菓子もあり、衝撃的な名前をつけることには抵抗がなかった。「自分にできることはお菓子を作ること。この土地らしいもの作りをして、富津を盛り上げたい」と話す。【田中綾乃】

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。