『人狩人』

『人狩人』長崎尚志著(角川春樹事務所・2200円)

漫画原作者として『MASTER キートン』(浦沢直樹)など数々のヒット作を世に送り出してきた長崎尚志は、エンターテインメントの骨法を知り尽くした小説家でもある。その作風の筆頭として挙げられるのは、戦後史の闇や民俗的伝承などを基にした、構想のバカでかさだ。ネット空間にはびこる素人のチャチな陰謀論を吹き飛ばし、「本物の陰謀ってのはこういうものを指すんだよ!」と突き付けてみせる。約3年ぶりとなる最新長編でも同様だ。

神奈川県内の森林公園で、矢のようなものが刺さった跡のある身元不明の遺体が発見される。実は十数年前にも似たような遺体が発見されていたが、未解決事案となっていた。同一犯か? 神奈川県警の新米刑事・桃井小百合は、犯人を次々に挙げる手腕から「神の手」と称される赤堂英一郎警部補とタッグを組み、事件捜査に臨む。闇社会との繫がりや汚職が噂されている赤堂をスパイせよ、という上層部の密命を受けながら。

森林公園で似たような遺体がさらに4体発見されたことから、赤堂はこのエリアで人間を標的とする「人狩り」が行われていたと指摘。そのゲームには謎の秘密結社が関わっており、GHQ(連合国軍総司令部)統治時代の秘密情報機関との繫がりもあぶり出され…。スケールアップする事件捜査パートの合間合間に、犯罪者をかくまう宿泊施設「キンブルホテル」に逗留する男・黒川と、娼婦の母が失踪し「修司さん」という老齢男性と暮らすことになった少年の語りが挿入される。3つのパートが合流し、全てのパズルのピースがそろった瞬間に現れる真実は、驚愕の一言だ。ミステリーとしての完成度は、著者史上ベストではないか。

惜しむらくは終盤に至り、赤堂と小百合のバディ関係が薄まってしまったが、エピローグにおいて2人の紐帯がグッと高まる。そして─絶対に続編を書く。その意志が表明されていることこそが、本作に対する著者の自信の表れだと思うのだ。

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