『センスの哲学』千葉雅也著(文芸春秋・1760円)
類まれなユーモアセンス、服のセンスがいい…。普段何気なく使う「センス」。哲学者で小説も手掛ける著者が、この言葉を切り口にユニークな芸術論を展開している。今月上旬に刊行され、3刷4万部。10~40代の読者が多いという。
センスには「直観的で総合的な判断力」といった意味がある。努力したところで身につかないイメージもある。著者はそんな定義を揺さぶり、芸術の鑑賞や創作に向かうヒントを示す。意味の呪縛から離れ、作品に内在する「リズム」を感じることもその一つ。表紙に使われた米美術家ロバート・ラウシェンバーグの抽象絵画も「意味がわからない」と嘆くのではなく、筆遣い、形、色彩などの運動やリズムに着目すれば新たな楽しみ方が見える。創作の場合、目指すモデルに近づけようとすると作品が窮屈になるし、足りない部分が目立つ。だから「モデルの再現から降りることが、センスの目覚め」とも。哲学的知見を基にした人間と人工知能(AI)の違いについての考察も面白い。
「芸術へのいざないの書。『何かを作りたい、という気持ちを後押ししてくれた』という感想も多い」と担当編集者。芸術の持つ「自由」を改めて教えてくれる。(海老沢類)
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