インタビューに答える北里大学の朝倉崇文助教=東京都内で2024年4月22日午後7時46分、蓬田正志撮影

 米大リーグ・ドジャースで大谷翔平選手の通訳を務めていた水原一平被告の違法賭博事件で、改めて「ギャンブル依存症」に注目が集まっている。北里大学医学部精神科学助教で、依存症専門外来も担当する朝倉崇文氏(46)に現状を聞いた。【蓬田正志】

 ――水原被告の事件をどうみていますか。

 ◆典型的なギャンブル依存の事例で、負けを取り戻すために「深追い」をするのは他の依存症にはない特有の症状だ。アルコール依存では、酒を10杯飲んだから次の日は12杯飲もうとはならない。

 ――どのようにギャンブル依存症と診断するのですか。

 ◆米国の精神医学会が出している基準がある。9項目のうち4項目以上が当てはまれば依存症だ。その一つに「賭博へののめり込みを隠すためにうそをつく」がある。これもほかの病気にはない症状で、「深追い」と合わせた二つが代表的な症状と言える。

 ――水原被告はオンラインで違法なスポーツ賭博をしたとされます。日本国内でも接続すれば違法なオンラインによる賭博の現状は。

 ◆オンラインなら海外のブックメーカーなどにも賭けることができ、規制が難しいのが現状だ。患者の中でもオンラインカジノやブックメーカーの利用は増えてきている。

 ただ競馬や競輪などの公営競技といった合法のスポーツ賭博が既に身近にあり、これらはオンラインで手軽に興じることができる。専門外来を受診した患者の理由は、2014年〜20年までパチンコ、パチスロが圧倒的に多かった。しかし、20年以降では公営競技がパチンコを上回っており、合法違法に関わらず、オンラインによる賭博の危険性が示唆される。

 ――ギャンブル依存になりやすい世代はありますか。

 ◆受診する主な患者は30~40代だ。国内の文献では、ギャンブルを理由に初めて借金してから精神科に受診するまで10年弱かかるとされる。20代でもギャンブルをしていたが、自分である程度稼げるようになったり、職場で金が扱える役職に就いて横領したりして悪化することが多い。

 またギャンブル依存は一時的にやめられるという特徴もある。就職や結婚した直後は時間がないため賭けることをやめられていても、子育てが一段落するなどの時間的な余裕ができて再度ギャンブルにのめり込むこともある。

 ――治療方法はどんなものがありますか。

 ◆日本では安全で効果が検証された薬物療法はなく、一番多いものは集団的認知行動療法だ。テキストを使いながら当事者たちがギャンブルにのめり込む状況を分析して、どこを変えられるか話し合ったり、アドバイスしあったりする。「ギャンブラーズ・アノニマス」など回復を目指す当事者たちが集まる自助グループが全国各地にあり、オンラインでも参加可能だ。

 ギャンブル依存者は見えを張ったり人にどう見られているのか気にしたりする人も多い。弱い部分をオープンにしていくことが大切だが、その際、非難したり軽蔑したりしないことが重要だ。

 ――ギャンブル依存に困ったら、どこに相談すればいいですか。

 ◆全ての都道府県、政令市には相談を受ける精神保健福祉センターがある。また依存症に対応している主な相談機関は、厚生労働省のウェブページ(https://izonsho.mhlw.go.jp/relation.html)に掲載されているので参考にしてほしい。

あさくら・たかふみ

 1978年生まれ。帝京大学医学部卒業後、北里大学精神科学に入局。大学病院でギャンブル障害、薬物依存の専門外来を立ち上げ、さまざまな依存の当事者に参加してもらう集団療法プログラムを開発した。厚生労働省依存症対策専門官、内閣官房参事官補佐を経て、2020年には新型コロナウイルスの集団感染が発生したダイヤモンド・プリンセス号に災害派遣精神医療チーム(DPAT)先遣隊本部長として支援に当たった。現在は大学病院で依存症専門外来を担当する傍ら、市民相談や生活困窮者の診療などにも当たる。

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