ほほえみの会が生活保護受給者と交わす財産管理の契約書の一部=桐生市で2024年6月13日、遠山和彦撮影

 生活保護費を巡る不適切な対応が問題化した群馬県桐生市で、市内の60代の男性受給者から財産管理を委任されたNPO法人「ほほえみの会」(太田市)が2021年から保護費を分割支給し、一部を預かっていたことが判明した。桐生市は男性の銀行口座に保護費を満額支給していたが、この口座をほほえみの会が管理し、男性の別の口座に同会が一部を振り込む形で分割支給していた。同市は18年4月~23年11月に14世帯への分割支給が判明し、同年12月、分割支給を行わないなどの改善策を打ち出している。

「金銭管理契約は不要と思った」しかし…

 男性によると、トラック運転手の仕事をしていたが持病の糖尿病が悪化して20年12月に入院。入院中に生活保護を申請し、21年1月に桐生市役所を訪れると、個室に案内された。市福祉課保護係の職員2人とほほえみの会の職員がおり、保護係から「銀行印や通帳、キャッシュカードは持ってきたか」「住居の身元引受人が必要」と告げられた。男性は住居の身元引受人は必要だが、財産管理契約は不要と思ったが、ここで断ると生活保護を認めてもらえないと考えて契約を結んだという。男性は17年ごろから約1年半、生活保護を受給していたが、この時は同会の金銭管理は受けていなかった。

契約解除したら口座に50万円

 保護費の支給額は月額7万数千円に決まり、同会の職員から「1週間に7000円振り込む。第3週は携帯電話と住居共益費で6000円上乗せして振り込む」との説明があった。以降は毎週火曜日に分割で保護費を受け取り、金額は希望して増額されることもあったという。

 男性は今年になって知人から「あなたも(桐生市で問題化した)分割支給じゃないか」と指摘され、ほほえみの会に契約解除を伝えた。住居の身元引受人は別の人に依頼し、6月末で財産管理契約を終了する。男性が確認したところ、生活保護費が市から振り込まれた銀行口座には約47万円の残高があったという。男性は「猛暑が予想されるので、口座のお金でまずクーラーを買いたい」と話している。

 市福祉課の小山貴之課長は「民間団体とは受給者の自由意思で契約してもらっており、市が契約を強制することはない」と説明。ほほえみの会の酒井晃洋理事は毎日新聞の取材に、財産管理をする理由の一般論として「住宅退去時のクリーニング費や緊急時に備えた金銭の確保を本人と相談のうえ決めている。本人から依頼をいただく都度、必要な金銭の対応は行っている」と文書で回答した。同会は4月から生活保護受給者の財産管理の新規受け付けを停止し、支援プロセス、内容を点検していることも明らかにした。

「自由にさせない」すごむ桐生市職員

 桐生市の80代の女性は2017年12月、ほほえみの会と身元引受人と生活保護費の財産管理契約を結んだ。女性によると、生活保護の申請窓口で市職員から促され、過去に市職員に「俺の目の黒いうちは自由にさせないぞ」とすごまれた経験もあったことから契約したという。約4万4000円の支給額のうち、1万円を「万一の時の葬儀費用」などとして同会にプールされ、毎月約3万4000円を受け取る状態が続いていた。

 女性は同会との契約を解除し、13日、市役所で会に預けていた通帳などを受け取った。市福祉課は「身元引受人のために会を紹介しても、強制はしていない」と説明する。一方、返還に立ち会った関口直久市議(共産)は「市が誘導してこうした仕組みを作って市民を苦しめている。市は謝罪をしないといけない」と批判した。【遠山和彦】

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