「電話は1分」「相手の不安を会話に入れる」――。強引な勧誘がしばしば問題となっているマルチ商法を巡り、毎日新聞はある企業が作成した勧誘マニュアルを入手した。
連載「マルチ2世」では、マルチ商法に翻弄された家庭の実態に迫ります。これまでの記事はこちら
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<次回(18日5時半公開予定)>
カルトに類似 2世が直面する「借金、絶縁、家庭崩壊」
マニュアルは化粧品や健康食品などを扱う大手マルチ企業の一つが会員に配布したもの。いかに相手をその気にさせて、マルチビジネスに抱き込むか。最後の一押しとなる「クロージング」の手順には、こんなことが書かれていた。
まずは「例えば、今より○万円収入が増えたらうれしくないですか? ビジネスを本気でやってみませんか」と切り出す。コツは「間を置かずにお金とビジネスをセットで誘うこと」。
次は相手の反応次第で、話をどう進めるか決める選択式だ。「興味がある」なら、「○万円あったらいいですよね。○○さんは(人柄を入れる)なので一緒に頑張ってみましょう!!」
「お金は欲しいけど無理」などと否定的な反応だったら、「そうですよね。私も初めはそう思っていました」と相手の意見を受け入れる。その上で「でもね、一緒に頑張ってみましょう」。いったん相手の意見を肯定して心を開かせる「イエス・バット法」というテクニックだ。
それでも渋っている場合は、「無理にとは言わないですが、○○さんと同じような境遇の人で成功している人がいるので、一度会ってみましょう」。「境遇」の部分には「子育てへの不安など、相手の境遇を具体的に入れる」とあった。
どんなペースで連絡を取るかも指南する。製品が届いた日は「電話は1分」「使い心地がいいでしょ、などとプラスの表現」。3日目は「玄関先で10分」「味がよくないよね、などとあえて製品の不具合を聞く」といった具合だ。
長年、マルチ企業の会員だった女性は「どの社もだいたい同じ」と明かす。マルチ商法に疑問を感じて退会した後、多くの会員やその親族からの相談に応じてきた。「マニュアル通りにやれば必ず成功すると信じ込まされ、次第に自分で判断できなくなるんです」
マルチ商法は合法だが、特定商取引法の規制対象になる。2022年には業界大手が社名や目的を言わずに勧誘したとして、消費者庁から6カ月の取引停止命令を受けた。
女性によると、最近は各社とも警戒して文書などには残さないものの、違法すれすれのノウハウは現場で引き継がれているという。
ある会員は収入を聞かれた場合、「月100万円あったらうれしいですよね」などと答えるように教わった。会員を集めた勉強会で、健康食品の効能を「言ってはダメだけど、実はがんを予防する」と説明されたケースも。だが、勧誘トークに利用することは「暗黙の了解」だった。
女性は「企業側は問題が起きた場合、『きちんと指導していたが会員が勝手にやった』と主張し、責任を逃れようとすることが多い」と指摘する。
【太田敦子】
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