北海道南部の八雲町でトラックが高速バスに衝突し、5人が死亡した事故から6月18日で1年となります。

 トラックドライバーの体調不良が背景にある事故。事故から見える現状と課題を緊急取材しました。

 事故が発生した時刻と同じ正午ごろ、犠牲者を悼み捧げられた黙とう。現場付近では警察官らが交通安全を呼びかけました。

 「1年の節目とみなさんが言うが、決して亡くなった人が帰ってくるわけではない。本当に残念」(衝突されたバス会社「北都交通」佐藤晃彦 取締役事業部長)

 2023年6月18日正午ごろ、晴れ渡った八雲町の国道5号線。車が行き交う中、次の瞬間…

 トラックが対向車線にはみ出して高速バスと正面衝突しました。

 この事故で双方の運転手と乗客のあわせて5人が死亡、12人が重軽傷を負いました。現場は片側1車線の緩やかなカーブでした。

 札幌方面に向かうトラック側に、ブレーキ痕はありませんでした。

 「大きな事故ですので申し訳なく思う。(書類送検されたことを)真摯に受け止め会社として対応していきたい」(日本クリーンファーム道南事業所 荒関邦彦事業所長)

 警察はトラック運転手が勤務していた養豚会社の安全運転管理者の2人を、業務上過失致死傷の疑いで3月に書類送検。

 2人は体調不良を訴えていたトラック運転手を乗務させ、事故を未然に防ぐ措置を怠った疑いが持たれています。

 また、当時65歳だったトラック運転手も、自らが安全に運転できる状態ではないと認識していたのに運転し事故を起こしたとして過失運転致死傷の疑いで、容疑者死亡のまま書類送検されました。

 運転手は事故の前日に体調不良を訴えていて、事故発生時は心疾患を引き起こしていました。警察によりますと体調不良が心疾患につながった可能性もあるといいます。

 「(以前から)あの車にすれ違っているんです。何回も。(いつも普通に運転しているから)ああいうふうにぶつかるのは考えられなかった」(男性ドライバー)

 事故を起こしたトラックを知るこの男性。函館の運送会社に44年勤めるベテランドライバーです。

 男性は高速バスに衝突したトラックと事故の数日前にも現場付近ですれ違っていました。

 「自分も本当に気を付けなければならないと思った。だけど気を付けなきゃいけないと言っても突然(体調不良に)なったらどうしようもないもんね」(男性ドライバー)

 男性は13年前の2011年冬、北海道豊浦町で大型トラックに衝突されました。

 これは男性が走行している時の映像です。

 対向車線を走っていたトラックがスリップして衝突。男性は全治5か月の重傷を負いました。

 「(トラックが)真横になってきたから、もうがっちり力は入りました」(男性ドライバー)

 男性は食品関係の輸送を担っています。

 前日の午後7時に函館を出発し、高速道路を使う片道約400キロのルートで午前2時に旭川に到着します。

 仮眠をとり朝に配達を終えると、今度は旭川から函館に戻ります。

 このように私たちの暮らしを支える運送業界ですが、いま深刻な人手不足に悩まされています。

 ピーク時の1995年には約98万人いたトラックドライバーは年々減り続けて、2025年には60万人を切るという予測もあります。

 「まず若い人来ないからね。荷物を運べなくなりますよ。運んでいるのは食べ物ですからね。食べ物運べなくなると大変ですよ」(男性ドライバー)

 さらに労働時間の規制で輸送量や収入の減少などが懸念される、いわゆる「2024年問題」が追い打ちをかけています。

 トラック運転手の時間外労働はこれまで規制がありませんでしたが、4月からは年間960時間が上限となりました。

 規制で男性の手取りは前の年の同じ月と比べて約1万円減りました。

 「電気代だね、電気はなるべく遅くつけて(節約)。物が値上がりしているけど給与は上がっていない」(男性ドライバー)

 慢性的な人手不足に加え、規制ものしかかる物流業界。この状況を専門家はどう見ているのでしょうか。

 「(某コンビニは)弁当を1日4回運んでいたが、いまは3回にしている。やはり配送頻度を落とす。こういうことをせざるを得ない動きは相当出てきた。ある意味では欠品は起きやすい」(流通経済大学 矢野裕児教授)

 輸送量や収入の減少がある一方で、事故を防ぐ上では今回の規制は重要なものだったと話します。 

 「危惧されているのは、ドライバーが高齢化しているということ。60代以上のドライバー(の割合)が非常に高まっている。そうすると結局は体調不良が発生しやすくなる。事故が発生する可能性は高い。体調管理は非常に重要になる」(流通経済大学 矢野裕児教授)

 悲惨な事故から1年。そして「2024年問題」。ドライバーの安全と物流を両立できるのか、正念場を迎えています。

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