1月の能登半島地震で、石川県が輪島市など被害が集中した5市町で訪問調査をしたところ、3月末時点では壊れた自宅で生活する高齢者ら支援を要する在宅の被災者が5483人いた。県への取材で判明した。大地震で在宅の被災者の大規模な状況が明らかになるのは初めて。
高血圧や帯状ほうしんの症状も
里山に集落が点在する珠洲市三崎町杉山。5月下旬になっても、元日の震度6強の揺れにより倒壊したままの建物が所々に残っている。
元大工の矢敷昭八さん(76)、妻とよ子さん(71)の自宅は全壊した。矢敷さんは昨年の大みそかに脳梗塞(こうそく)で入院し、退院後は1月末まで知人宅に身を寄せた。
その後、夫婦は車庫として使っていた自宅敷地内のビニールハウスで過ごす。2月から入居が始まった仮設住宅は、市から「入居の条件を満たしていない」として、入れなかった。
夫婦の元には週1、2回、国内外で人道支援を続ける認定NPO法人「ピースウィンズ・ジャパン」(PWJ、広島県神石高原町)のメンバーで、現地責任者の橋本笙子さん(59)と看護師の長島良枝さん(58)らが訪れる。
今回の地震で、矢敷さん夫婦の自宅は壁や屋根が崩れ落ち、室内にはあらゆる物が散乱した。ただ、雨風をしのぐ在宅避難生活になった。
「矢敷さん。お変わりないですか」。長島さんは薬を差し出し血圧をはかると、最大血圧は180ミリHgだった。布団で横になっていたとよ子さんの体調も確認すると、帯状ほうしんや下痢の症状が見られ、経口補水液を差し出して薬も飲むようすすめた。
珠洲市の人口は約1万2000人。このうち、65歳以上の高齢者は5割を超える。市健康増進センターの三上豊子さん(59)は「在宅避難者の課題は見えにくく、対応が遅れると死につながる」と話す。
今回の地震では、センターが1月3日に各世帯などへの戸別訪問を始め、発生の2週間後からPWJや日本災害看護学会、市外の自治体からの保健師らが支援に入り、市内の全5860世帯の自宅の見回りを実施した。
県も国の「被災高齢者等把握事業」を活用して、珠洲市だけでなく輪島市と七尾市、能登町、穴水町の4市町でも在宅の高齢者らの把握をすることになった。
PWJの看護師には、在宅避難者の苦悩が次々と寄せられるという。
「(屋根を覆う)ブルーシートが順番待ちで手に入らない」
「雨漏りする玄関で寝ている」
「脳性まひの母親とてんかんの娘とどう暮らしたらいいのか……」
三上さんはPWJとこうした声を共有し、被災者を福祉機関につなげるなど課題の解決に奔走する。
一緒に活動するNPO法人「YNF」(福岡市)の江崎太郎さん(45)は熊本地震や九州の豪雨災害で、車中泊の避難者らを支援してきた。珠洲市では、自宅を再建しようとする被災者の相談に応じるため、阪神や東日本の大震災で活動した弁護士、建築士とチームを結成した。
「今のままでは関連死だけでなく、自死する人さえ出かねない。暮らしの実態に応じた支援が必要だ」【井上元宏、深尾昭寛、中尾卓英】
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