復旧工事が行われている静岡県熱海市の伊豆山地区(2日午後)=共同

28人が犠牲になった静岡県熱海市の大規模土石流災害から3日で3年となった。被災地では、土石流が下った河川と道路の整備は必要な用地買収が進まず完了がずれこみ、街の再生の遅れが懸念される。昨年9月に警戒区域が解除されたが、帰還した住民は2割ほど。市の復興計画や宅地復旧を巡り被災者と行政の確執も生まれ、専門家は「住民との対話を」と訴える。

「こんな状態であと2年でできるわけない」。元々住んでいた伊豆山地区に昨年10月に帰還した男性(76)は本音を漏らす。被災から3年がたつが、街中には大きな岩や土砂が残るなど、被災の爪痕はいまだに色濃い。

市によると、同様の災害防止に向けた河川拡幅や、緊急車両を通りやすくする道路整備のための用地買収は、道路が75%、河川が60%ほどにとどまる。当初から2年先送りした2026年度末の工事完了を目指すが、市は再延長を否定しない。

市と住民との不和も生じている。宅地復旧の補助制度を巡り、市は昨年5月、住宅再建を希望する人の土地を買収し宅地造成後に再分譲する方針を、被災者の負担費用の90%を補助することに変更。ほとんどの被災者に事前説明がなく書面での通知だったため反発が広がった。被災者や市議会が苦言を呈し、補正予算案が取り下げられた。

市の復旧事業を巡っても、一部住民が「意見が反映されていない」と反発。警戒区域解除後に市が地区別説明会を行うなど多くの復興策が後手後手となり、被災者とのコミュニケーション不足が浮き彫りとなった。

斉藤栄市長は先月28日の記者会見で「復興が遅れていることは否めない。進捗状況の詳細を伝えることに力を入れていきたい」と話した。

住民説明会では、行政の担当者と膝をつき合わせた対話に好意的な意見もあった。同地区で空き巣や不審火があり、街灯の増設や防犯カメラの設置など住民の意見をくみ取った対策もなされつつあり、市は住民との対話の機会確保を模索する。

復興政策に詳しい大阪公立大の菅野拓准教授は、東日本大震災では行政が議会や住民と調整し意見のくみ取りに注力した地域の復興はスムーズだったとし、「一度失った信頼を取り戻すには何倍もの時間がかかる。市長や担当者が自ら足を動かし、住民の声を聞く機会をつくり反映させるべきだ」と指摘する。〔共同〕

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