心情等伝達制度の実演研修をする刑務官ら(2023年11月、堺市の法務省施設)=共同

刑務所の刑務官や少年院の法務教官が、犯罪被害者やその遺族らの思いを聞き、施設内の加害者に伝える「心情等伝達制度」。被害者支援の充実や更生促進を目指し2023年12月に始まったが、半年間で申し込みは59件と定着は道半ばだ。専門家は周知強化だけでなく、仲介役の職員の継続的なトレーニングが制度浸透の鍵だと指摘する。

法務省によると、寄せられた伝達事項には「弁償を求めたい」「反省の有無を聞きたい」といった内容や、仮釈放への反対の意思を示すものもあった。

伝えられた加害者の反応はさまざまだ。動揺、涙、謝罪の言葉……。伝達を終えた42件では、こうした様子を被害者側にフィードバックした。

19年の東京・池袋の乗用車暴走事故で妻子を亡くした松永拓也さん(37)も24年3月に利用した。旧通産省工業技術院元院長の飯塚幸三受刑者(93)に「どうすれば事故を起こさずに済んだか」と伝えると、後日「運転しないことが大事です」との回答を得た。

利用にはまず被害者側が申込書を矯正管区や施設に郵送するか持参する。次に施設の「被害者担当官」が心情を聴取し、内容を書面にまとめ、加害者の面前で読み上げる。

5月末までの59件のうち、被害者本人からが19件、遺族や保護者からが40件。施設別では15件が少年院、44件が刑務所などだった。

同じ事件で複数の加害者に伝えたり、複数回利用したりしたケースもあった。法務省は施設ごとに担当官を少なくとも男女1人ずつ、大規模施設では10人前後を配置。全国で計約500人が担当できる状態で、人的な余裕はあるという。

導入前に法務省が設置した有識者会議のメンバーだった琉球大法科大学院の斎藤実教授(被害者学)は「心情聴取という行為自体が、被害者の心の整理につながる可能性がある」と期待する。施設職員が被害者の心情に触れる機会は少なかったとし「聴取した職員たちの、受刑者らへの向き合い方に良い変化が出るのでは」とみる。

制度の充実には「職員の技量が鍵だ」と指摘。被害経験の聞き取りや書面にまとめる作業は難しく、加害者への伝達を考えて適切な言葉を選ぶ工夫も求められる。斎藤教授は「実践を意識した研修や経験の共有で、スキルを磨くことが欠かせない」とする。

法務省側も同様の問題意識を持っており、近く全国の刑務所職員ら約140人を集め、利用した被害者の体験談などを聞く機会を設ける。幹部は「未経験の職員もまだ多くいる。出番が来た時にスムーズに対応できるようにしたい」と話す。〔共同〕

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