日本新聞協会は17日、検索連動型の生成AI(人工知能)サービスについて「報道コンテンツを無断利用しており、著作権侵害に該当する可能性が高い」とする声明を発表した(https://www.pressnet.or.jp/statement/broadcasting/240717_15523.html)。「知的財産権の軽視とも言えるような風潮は関係法令が十分に整備されていないことが背景にある」として、著作権法の改正を含めた法整備を政府に求めた。

新聞協会はこれまでも、生成AIの学習などに報道コンテンツを利用する場合には許諾を得るよう求めてきた。事態が改善されないまま生成AIサービスの拡大が図られており、著作権の侵害に対して改めて強い危機感を示した。

検索連動型の生成AIサービスは利用者が入力したキーワードや質問に対し、生成AIが構成した文章で回答する。外部のデータベースと生成AIモデルを連携し統合した手法で「検索拡張生成(RAG)」とも呼ばれる。

米グーグルは2023年8月から生成AIサービス「SGE」の試験運用を日本で進めている。5月からは米国で「AIオーバービュー」の一般提供が始まった。米マイクロソフトも自社の検索サービス「Bing(ビング)」にChatGPTを組み込んでいる。

新聞協会は生成AIの回答は報道コンテンツを無断利用し元記事に類似したものが多いと指摘した。記事は労力とコストをかけた知的財産で「タダ乗りが許容されるべきではない」とし、サービス提供者は許諾を得て対価を支払う原則があると訴えた。

検索サービスによる著作権侵害を巡る判断は著作権法47条の5の適否が焦点になる。同条は「軽微利用」の場合に限り、検索サービスに対して許諾なしでの著作物の利用を認めている。

新聞協会はグーグルなどが提供する検索連動型の生成AIサービスについて「利用者が求める情報をネット上から探し出し、転用・加工したコンテンツを提供すること」が主な機能と言及。元記事をほぼそのまま転載したり、複数の記事を組み合わせて回答したりしたとみられる事例も多く「『軽微な利用』とは到底言えない」と主張した。

生成AI技術を巡り文化庁は3月、現行法の枠組みの中で考え方を整理した。報道機関などが複製防止の対策を講じ、将来的に販売する可能性があるデータベースを無断でAIに学習させた場合には著作権侵害の恐れがあると例示した。

新聞協会は文化庁の動きを評価したうえで「解釈に曖昧な部分は残っている」と強調した。タダ乗りを放置しコンテンツの再生産が細れば、民主主義や文化的発展に不利益が生じるとして、法整備による知的財産権の保護を要請した。

記事無断利用、許容できず 生成AI検索に公正損なう懸念

日本新聞協会が生成AI(人工知能)の検索連動型サービスを巡る声明で訴えたのは、検索市場を独占する事業者による記事の無断利用が公正競争をゆがめるとの懸念だ。

新聞協会は17日に公表した声明において、許諾を得ないまま報道記事を無断利用することは許容されず、それが強行されることは「市場の公正性を阻害する」と指摘した。

公正取引委員会は2023年、ニュースサイトに一定の送客をするインターネット検索事業者は独占禁止法上の優越的地位にある可能性があるとの報告書をまとめている。

新聞協会の声明ではこの点を踏まえ、検索連動型のサービスでの記事の無断利用は「独禁法に抵触する可能性もある」と懸念を示した。

海外の報道機関も生成AIの検索連動型サービスに対して強い警戒感を示す。

米ニュースメディア連合(NMA)は24年5月末、一部の生成AIサービス事業者が新聞社などの記事を不正に活用しているとして、米司法省や米連邦取引委員会(FTC)にサービス拡大を止めるよう要請した。

NMAは書簡の中で、米グーグルによる生成AIの検索サービスは「広告やサブスクリプション、アフィリエイトを通じてコンテンツを収益化する報道機関の能力を大幅に低下させ、代わりに利益が直接グーグルにもたらされる」と指摘した。「質の高いオリジナルコンテンツを制作するための資金調達手段を奪われる」とも訴えた。

検索サイト市場で圧倒的な力を持つグーグルがコンテンツを無断利用し、生成AIによる検索結果として示せば、報道機関のサイトを見る人が大幅に減り、事業者は行き詰まりかねない。生成AIの検索サービスは新たなコンテンツを生み出せなくなる危険性をはらむ。

欧州ではフランスの競争委員会(日本の公取委に相当)が24年3月、グーグルにAI開発で各メディアの記事を無断利用したなどの問題で、2億5000万ユーロ(約430億円)の罰金を科すと発表した。

他方、生成AIを重要な技術革新と捉え、生成AIを手掛ける事業者と報道機関が連携し、サービスの充実を図る事例もある。

米新興企業オープンAIは5月、経済紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)などを展開する米新聞・出版大手ニューズ・コーポレーションとの提携を発表した。対価を支払い、記事データを使ったAI学習や要約作成を認めてもらう。

オープンAIは今年に入り、米誌アトランティックや英経済紙のフィナンシャル・タイムズ(FT)、仏紙ルモンドとも相次ぎ手を結ぶと発表した。報道で培われてきた正確で質の高い文章をAIの学習に活用できれば、AIサービスの質向上が期待できる。

一方で米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)は23年末、オープンAIと同社に出資する米マイクロソフトを著作権侵害にあたるとして提訴に踏み切った。AIに対する報道各社の対応は割れている。

AIを巡るテクノロジーは急速に発展している。その中で、報道を巡る公正な市場競争をどう実現するか、日本も欧米も最適解への模索が続いている。

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