文部科学省は29日、2024年度の全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の結果を公表した。自分の考えなどを説明する記述式の正答率が低く、表現力に課題がみられた。授業で発表する場面でICT(情報通信技術)を活用すると正答率が高い傾向も判明。教員がICTを組み込んだ授業に改善できるかが表現力向上のカギを握る。
今回は4月に国語と算数・数学の2教科を実施し、全国の国公私立約2万8000校の計約186万人分を集計した。平均正答率は小6が国語67.8%、算数63.6%、中3が国語58.4%、数学53.0%だった。
中3国語は前年度から11.7ポイント下がり、現行方式が導入された19年度以降では過去最低となった。問題を作成した国立教育政策研究所は「複数出題した目的に応じた文章を工夫して書く設問の正答率が低かったことが点数を押し下げた一因だ」と分析。一方で「難易度は調整しておらず、結果は単純に比較できない」としている。
小中学校の現在の学習指導要領は思考力や判断力、表現力を伸ばすことを目指す。学力テストは日常生活や身近なテーマの課題解決と結びつけてこれらの力を測る設問が多い。
主に表現力を確かめる記述式の平均正答率は小6国語が全体正答率より3.1ポイント、小6算数は12.4ポイント低かった。中3国語で12.3ポイント、中3数学では23.0ポイントも下回った。
中3国語で、指示に従いながら登場人物の心情が伝わるように工夫して書く問題の正答率が49.8%にとどまった。
中3数学では、ストーブの灯油を使い切るまでの使用時間が「強」と「弱」の場合でどれくらい違うかを一次関数や式を用いながら説明する問題の正答率が1割に満たなかった。
児童生徒と学校へのアンケート調査を分析すると、各教科の正答率は授業などで考えを発表する場面でのICTの活用頻度と関連性がみられた。
例えば中3で発表場面でのICT活用頻度が週3回以上の学校で、課題解決に向けて話し合う学習活動をしている場合は、数学の正答率が54.7%だった。一方、ICT活用頻度が週3回未満で課題解決の学習活動を「行わなかった」とした学校の数学は48.9%と5.8ポイント低かった。
国語や小6算数も同様の傾向だった。正確なデータはないものの、文科省担当者は「発表の際にICTを使うことは記述力や表現力に影響している可能性がある」としている。
児童生徒1人に学習用端末1台が配備されて以降、ICTの活用が一層進んでいる。授業でICT機器を週3回以上活用した小学校は93.3%に上り、前年比2.7ポイント増。中学校も90.8%(同4.3ポイント増)となった。
約9割の児童生徒が端末などについて「分からないことがあった時に、すぐ調べることができる」や「画像や動画、音声を活用することで学習内容がよく分かる」、「友達と考えを共有したり比べたりしやすくなる」との問いに「そう思う」と回答。ICTの効力を感じていることも分かった。
ICTの教育活用に詳しい奈良教育大大学院の小崎誠二准教授(教育学)は「鉛筆を使うより、端末で文字を打ち込む方が『書く』ことへのハードルが低い。ICTを使えば画面の共有などで気軽に考えを伝え合うことができ、発表に適している」と話す。
記述式では無解答の児童生徒が減っている傾向もみられる。中3数学のストーブの使用時間に関する問題の無解答率は16.2%だったが、18年度の同じ傾向の問題の無解答率は32.7%だった。同省担当者は「書くことへの抵抗感がなくなってきており、説明しようというプロセスに移行してきている」と分析する。
小崎准教授は「自分の教育プランが確立しているような経験を積んだ教員は、ICTを使って授業をどう改善すればよいか、悩むケースが多い。校務の削減にデジタルトランスフォーメーション(DX)を導入するなど、まずは子どもに影響を与えない範囲でICTを利用してみて、授業の質向上に発展させてほしい」としている。
(大元裕行、森紗良)
家庭状況による学力格差、授業方法で逆転も
2024年度の全国学力テストでは、アンケート調査を併せて実施し、児童生徒の出身家庭の「社会経済的地位(SES)」や学校での授業方法が正答率にどう影響しているかを分析した。
SESは親の所得や学歴などの水準を示すもので、今回の調査では指標として各家庭の蔵書数を用いた。蔵書数が少ない家庭の児童生徒ほど、各教科の正答率が低い傾向がみられた。
一方で家庭の蔵書数が少なくても、通っている学校で課題解決に向けて自ら取り組む授業を受けている場合、正答率が高くなる傾向があった。
例えば中学3年の数学では、蔵書が0〜25冊と最も少ない層のうち、課題解決型の授業を受けている生徒の正答率は55.9%。蔵書が101冊以上と最も多いものの、課題解決型の授業を受けていない生徒の正答率(40.0%)を上回った。
文部科学省はこうした授業を「主体的・対話的で深い学び」(アクティブラーニング)として推進してきた。同省担当者は今回の分析結果を受け、「授業の方法によって、SESによる格差を改善できる可能性がある」としている。
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