[命ぐすい耳ぐすい 県医師会編](1342)

 沖縄では車で会社へ出勤する、学校まで車で送迎してもらう、徒歩圏内のコンビニへも車で行く、ということが当たり前になっています。モノレール以外に鉄道がなく、車がないと生活できない日本有数の車社会となっているからです。沖縄市やうるま市、浦添市のように人口10万人規模の都市で鉄軌道が整備されていない所は全国的にほとんどありません。その結果、交通渋滞が深刻化しています。

 鉄道やバスを使う習慣があれば、駅構内や自宅からバス停までの道を自然と歩くことになるのですが、沖縄ではその実現が難しく、県民の一日当たりの歩数は男性が全国38位、女性が39位と低い水準にとどまっており、肥満率は全国ワーストです。夏の日差しが強く、歩きたいと思えない暑さであることもその要因かもしれません。

 対策として枝葉の茂った街路樹やひさし、屋根を使って日差しを防ぐ歩道が必要です。日陰に入れば風が通ることが多く、涼しさを感じられるでしょう。真夏の昼間は、空調が効いたショッピングモール内を歩く「モールウオーキング」も効果的です。買い物をするだけでも、気がつかない間に結構歩いていることがあります。

 歩くことは骨折や認知症、うつ病の予防にもつながり、肥満や糖尿病の治療にもなります。歩きたくなる街づくりが県民の心身を健康にし、沖縄が抱えている健康問題の解決につながる可能性があります。

 近年は健康まちづくりの研究が進んできています。広い歩道や歩行者専用道路がある地域、駅やバス停、公園、生鮮食料品店といった目的地へのアクセスがいい地域に住んでいる人々は、より多く歩いていることが明らかになっています。

 欧米では健康寿命を延ばす施策として、これらの要素が都市計画に取り入れられてきています。今後沖縄では米軍基地返還に伴う都市開発が予想されますが、渋滞解消のため車道を拡充させることに重きを置くのではなく、公共交通機関を整備し、暑さを防ぐ工夫で「歩きたくなる」街づくりが求められます。

(松本一希・元県立八重山病院=石垣市)=第1、2、4水曜日掲載

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。