築300年を超える自宅の前で、上空を飛ぶジェット機を見つめる「しばやま郷土史研究会」会長の木内昭博さん=千葉県芝山町で2024年6月29日午後0時21分、小林多美子撮影

 千葉県芝山町の住民らでつくる「しばやま郷土史研究会」は2017年に、町教委を事務局に発足した。その前年、成田空港の拡張案が国と県、地元9市町、成田国際空港会社(NAA)による四者協議で、NAAから提示された。空港の面積は現在の1198ヘクタールから2297ヘクタールに拡張し、町の6分の1超が空港の敷地となる計画だ。

 同じ16年には、奈良時代の781年創建と伝わる古刹(こさつ)「芝山仁王尊・観音教寺」(同町芝山)の門前にあり、参拝者が宿泊した旧旅籠(はたご)の建物3軒の所管が、町産業振興課から町教委に移管された。町教委社会教育・文化振興担当の奥住淳課長は「こうしたタイミングが重なったこともあり、地域の調査や文化財の活用に住民の協力を得られないかと考えた」と、郷土史研究会設立の経緯を振り返る。

 現在、会員は約20人。空港の拡張予定地内で暮らす住民もいる。これまでは移転対象地区を中心に、寺社や民俗行事、石碑、古文書などの確認と撮影などに取り組んできた。また、旧旅籠の一般公開時の案内役なども担った。

 郷土史研究の対象は家に伝わる過去の記録など個人所蔵の資料や、古民家など個人宅が多い。奥住課長は「地域に暮らしている人たちは、現在の状況や資料のある場所などいろんな情報を持っている。会員が地域との橋渡し役になってくれたから、できている調査は多い」と住民参加の重要性を強調する。

 連携して拡張予定地の調査を行っている「北総地域資料・文化財保全ネットワーク(北総ネット)」のメンバーで長野大教授(日本近現代史)の相川陽一さんは、調査研究のプロである自分たちと対比して、郷土史研究会の会員たちのことを「郷土の専門家」と表現する。

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 郷土史研究会の会員たちにとっても、地域の歴史の記録と伝承は重要な課題だ。会長の木内昭博さん(77)が暮らす同町大里の白桝(しらます)地区は、一部が騒音対策に伴う移転の対象地域になっている。同地区は「おいとこそうだよ~」の歌い出しで始まり「おいとこ節」の名でも知られる「白桝粉屋おどり」発祥の地だ。江戸で流行し、主に東北地方に広まった。県の無形民俗文化財に指定され、木内さんは保存会の会長を務めたこともある。

 地区内では既に移転が進んでおり、空き家も増えた。長い歴史のある集落がばらばらになっていく現状に、さみしさともどかしさを感じている。

 木内さんの祖先は江戸時代初期に白桝地区に住み始めたと伝わる。家屋は築300年を超える。家に伝わる古文書などは「木内家文書」として町に寄託し、町史編さんなどに生かされてきた。騒音移転は任意のため、木内さんは住み慣れたこの地から転出するつもりはない。「若い人たちにとっては便利さは大事だと思うが、私は離れることはないと思う」と話す。

 木内さんは空港の拡張による機能強化は町にとっても必要なことと考えているが、文化財や歴史を守る大切さも、もっと多くの人に知ってほしいと願う。これから地域はどうなっていくのかと考える日々という。「どうしたらいいのか、ご先祖に聞けるものなら聞いてみたい」。苦笑いしながら、つぶやいた。【小林多美子】

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