段ボールなどのパーテーションで仕切っても、周囲の話し声や物音が聞こえ、眠りが妨げられる避難所生活。パーテーションの形状を変化させ、防音効果を生むことはできないか――。愛媛県立宇和島東高校の3年生4人はそんな問題意識から音の測定実験を重ね、論文「段ボールの形状の違いによる避難所の防音効果」を執筆。8月に愛媛大学社会共創コンテスト特別賞を受賞した。検証を重ね、最適と導き出したパーテーションの形とは。
受賞したのは高田剣志さん(18)、大加田元輝(げんき)さん(17)、中西玲雄(れお)さん(17)、吉岡大我(たいが)さん(17)。全国の高校生が社会課題の解決を探る同コンテストで「研究全体として高い体系性、再現性が認められ、商品化を期待したい」と高く評価された。
多くの被害を出した2018年の西日本豪雨でも避難所は身近な存在だったことから、4人は2年次の課題研究で避難所生活をテーマに課題研究を進めることにした。同校で2学年上の先輩も段ボール内部の構造を変えて避難所の防音性を高めることを試みており、今回は段ボールの上から居住区画に回り込む「回折(かいせつ)音」を抑えるパーテーションの形状を考えることにした。
「まず身近なものを考えるうち、高速道路の防音壁を連想しました」と吉岡さん。高速道の上にひさしのように張り出し、防音効果を上げている壁をヒントに、実際に段ボールでパーテーション上部をさまざまに加工して測定実験に入った。
垂直にまっすぐな壁▽高速道の防音壁のように曲げた「かもめ型」▽まっすぐな壁の上に小さな屋根を渡した「T字型」――の三通りで、3分の1スケールで実験。パーテーションの高さは各自治体の規定に近い1・8メートルを想定した。男性、女性の話し声を各1500ヘルツ、3000ヘルツと通常の約3倍の周波数に置き換えてシミュレーション。その結果、まっすぐな壁に比べ、かもめ型、T字型とも音が回り込む「回折音」を防ぐ効果が高いことが分かった。最大音圧を比べると、真っすぐな壁に比べ、T字型は男性の声で約2倍、女性の声で約3倍程度の回折音を低減する効果が期待できるという。
同様に3分の1スケールでT字型の屋根の幅による防音効果を音波発生ソフトで比べたところ、屋根の幅40センチと屋根がないまっすぐの壁の対比では、男性の声は普通の会話程度(60デシベル台)から静かな事務所程度(50デシベル台)に、女性の声は静かな事務所程度(50デシベル台)から図書館程度(40デシベル台)へとそれぞれ軽減できた。
ただ、T字型屋根の幅を長くしても、同じ周波数や倍音などで振動する共振や共鳴の影響があり、シミュレーションから4人は「壁の高さが180センチの場合、居住性に優れ、防音効果が高いT字型屋根の幅は52・5センチ」と結論づけた。
高田さんの父で同県鬼北町職員の賢三さんは1月、能登半島地震の被災地にボランティアで駆けつけた。当時、避難所はパーテーション代わりにパイプ椅子で区切られ、「なかなか寝付けない」との声を聞いたという。高田剣志さんは「このパーテーションが何らかの形で具体化され、避難所の生活の質を高めることができればうれしい」と話している。【松倉展人】
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