自らを伝説のプレイボーイになぞらえ「紀州のドン・ファン」と自称した資産家の野崎幸助さん(当時77歳)が死亡してから6年。
この記事の画像(12枚)野崎さんに「覚醒剤を飲ませて殺害した罪」に問われている55歳年下の元妻の裁判員裁判が始まった。
黒のノースリーブワンピースで法廷に立った元妻。
「私は無罪です。私は社長を殺していませんし、覚醒剤を摂取させたこともありません」と無罪を主張した。
■「1億円ぐらいは紙切れ」伝説のプレイボーイの名で呼ばれた資産家男性
和歌山県田辺市で生まれた野崎さん。
地元の中学校を卒業後、金融業や酒類の販売、不動産事業などで成功し、一代で億単位の財産を築き「1億円ぐらいは紙切れみたいなもんや」と生前語っていた。
そんな野崎さんが世間から注目されるようになったのは、金品を奪われる「被害者」としてだった。
自宅には、様々な高級品があり、強盗に4000万円相当を奪われた経験もある。
2016年には、50歳下の交際相手に、現金600万円と時価5400万円相当の貴金属を盗まれた。
野崎幸助さん:(女性が)時計とかダイヤモンドとか一緒に入っているやつ全部持って行った。(女性とは)アバンチュールですね。それが私の脇の甘いところ。
野崎さんは、多くの女性と交際してきたことを赤裸々に語り、スペインの伝説上のプレイボーイになぞらえて、「紀州のドン・ファン」と自ら称していた。
■55歳下の被告と結婚してからわずか3カ月で死亡
2018年2月、76歳の時に、55歳年下の女性と結婚。
この相手というのが、須藤被告だった。
野崎さんの45年来の友人・沖見泰一さん:普通の若い女の子で。手からスマホを離さないというイメージ。大人の話で田舎の話とか、色々とそういう。もろもろの話しても、全然ちんぷんかんぷんで。ただ、そこに居るっていうだけの存在だった。
野崎さんが自宅で死亡しているのが見つかったのは、その結婚からおよそ3カ月後のこと。
死因は「急性覚醒剤中毒」だった。
■「本当に殺してない」事件後に語った元妻
他殺なのか、自分で覚醒剤を服用したことによる事故死なのか。
疑惑の目は、事件当時、家にいた須藤被告に向けられ、そのころ、FNNの単独取材に応じていた。
須藤被告(2018年):本当に殺してないです。社長の前の女の人が覚せい剤をやっていたと、家政婦の方から聞いています。
■難航を極めた捜査 愛犬も同時期に突然死
警察は、野崎さんが死亡する12日前に愛犬の「イブ」が突然死したことにも着目。
埋葬された「イブ」を掘り起こして鑑定したり、野崎さんが飲んだビールの空き瓶およそ2000本も押収したりしましたが、いずれも覚醒剤は検出されず、捜査は難航を極めた。
そして、事件から3年後の2021年、野崎さんが覚醒剤を口から摂取したとみられる夕方の時間に家に須藤被告しかいなかったことや、須藤被告が、事件の前にインターネットで覚醒剤について調べていて、密売人とSNSを通じて接触したとみられることなどから、警察は、状況証拠が揃ったとして、須藤被告を野崎さん殺害容疑での逮捕に踏み切った。
■事件前に被告との離婚ほのめかし 別れた後の交際相手も決めていた「紀州のドン・ファン」
また、その後の取材で、事件前に野崎さんが、須藤被告との離婚をほのめかしていたことがわかった。
野崎さんの知人 武田美喜枝さん(87):「財産誰にやるんだ?」と聞いたら「イブに全部やる」イブて犬の名前や、「犬にやる前に嫁さんちゃうんか?」て言うてん、「まぁな、まぁな」と。その時から心は冷えていたんかな。
沖見泰一さん:結婚したけども田辺には皆目来ないんだとか言って、もうそうこうしてるうちにね結婚したのに、もう次の彼女ができて、もうあの子と別れるとか言ったりね、その須藤早貴と。
須藤被告と別れた後の交際相手をすでに決めていたという野崎さん。
■裁判前に「有罪立証」への自信を見せた検察側
警察は、「離婚問題」をきっかけに、須藤被告が犯行に及んだ疑いもあるとみて捜査を進めたが、須藤被告は逮捕後の調べで容疑を否認した後、事件への関与について供述しなくなった。
状況証拠だけで有罪を証明できるのか。
裁判前、捜査関係者は「有罪立証に自信があるから起訴している」と話し、有罪立証への自信をのぞかせていた。
■「私は無罪」はっきりと口にした元妻
注目の裁判は12日午前10時40分ごろに始まった。
開廷時間の少し前に法廷に現れた須藤被告は、足首近くまで長さのある黒色のワンピースを着て、白のマスクを着けていた。
実はこの黒のワンピースという服装は、別の男性に対する詐欺罪に問われた裁判(今月2に実刑判決が言い渡されている)でも、同じものだった。
どんな心境で、この法廷にやってきたのだろうか。
そして裁判が始まると、「私は社長(野崎さんのこと)を殺していませんし、無罪です」そう訴えた。声は非常に小さかったが、はっきりと無罪を主張した。
もちろん一審で有罪となった詐欺罪の裁判と今回の野崎さん殺害に問われた裁判は全く別のものだが、須藤被告の裁判を何度か傍聴していると、「はっきりと主張する人物だな」という印象を抱くようになった。
詐欺罪での被告人質問では、弁護側、検察側を問わずに聞かれたことに端的に答えていて、忘れたことやわからないことも、しっかりと説明するので、うそをついていることないという印象も受けた。
そんな須藤被告が、弁護側によると「わからないことばかり」の今回の裁判で、「小声ながらもはっきりと無罪主張」したことは、印象通りに思えた。
■「完全犯罪により莫大な遺産を得るため致死量の覚醒剤を摂取させて殺害した」と主張した検察側
一方の検察側の冒頭陳述。
直接的な証拠が乏しい中、検察側は次々と新たな事実として状況証拠を示し、「犯人である証拠を残さない完全犯罪。資産家である野崎さんと財産目当てで結婚し、完全犯罪により莫大な遺産を得るため致死量の覚醒剤を摂取させて殺害した」と主張した。
■結婚前に「遺産目当てと言われた女たち5選」なるYouTube動画を視聴と検察側
【検察側 冒頭陳述の内容】
結婚の前月に、「遺産目当てと言われた女たち5選」なるYouTube動画を閲覧していたという須藤被告。
事件の3カ月前、2018年2月に、野崎さんから毎月100万円をもらう約束を交わし結婚した。
■結婚後 すぐに「離婚届」を作成した野崎さん 被告は「覚醒剤」を入手と検察側
しかし、翌3月に野崎さんは「離婚届」を作成した。
この頃から、須藤被告は「薬物」「老人 死亡」「老人 完全犯罪」などと検索するようになる。
さらに、4月には「覚醒剤 過剰摂取」「覚醒剤 死亡」と検索。
『覚醒剤密売サイト』を通じて、少なくとも3グラム以上=致死量の3倍以上の覚醒剤と思われるものを入手したというのだ。
そして、覚醒剤入手後は「妻に全財産を残したい場合の遺言書の文例」なるサイトを閲覧。「遺産相続専門家」「相続税 海外口座」などといったワードも検索していた。
そして、5月24日、野崎さんは自宅で死亡した。
死因は「急性覚醒剤中毒」。
■「須藤被告は野崎さんを殺害して遺産を手に入れる」という動機があったと検察側
検察側は、防犯カメラの映像などから野崎さんが覚醒剤を摂取した時間帯に、自宅には野崎さんと須藤被告の2人しかいなかったとしている。
野崎さんの死後、須藤被告は「遺産相続どのくらいかかる」「昔の携帯 通話履歴 警察」などと検索していたという。
そして、事件の翌年2019年には「殺人罪 時効」とも検索していた。
こうした状況証拠などから、検察側は「須藤被告は野崎さんを殺害して遺産を手に入れる」という動機があった」と指摘している。
須藤被告は、法廷で静かにこうした検察側の主張を聞いていた。
■「刑事裁判では疑問が残る場合は無罪にしなければならない」と弁護側
一方、弁護側は冒頭陳述で「そもそも、殺すのに覚醒剤を選ぶのか。覚醒剤を大量に飲ませて完全犯罪にすると思いつくか」「野﨑さんが自分の意思で飲んだことは完全に否定できるか」と指摘。
裁判員に向かって「刑事裁判では疑問が残る場合は無罪にしなければなりません。須藤さんが野崎さんを殺すつもりで覚醒剤を飲ませたのか、そのことが間違いないと言えるのか。
『言い切れないんじゃないかな』。そんな疑問が残るなら、須藤さんに無罪を言い渡さないといけない」と訴えた。
本当に野崎さんを殺害したのは、須藤被告なのか。
覚醒剤を飲ませた「何らかの方法」とはいったいどのようなものなのか。
長期間にわたる裁判の中で裁判員は難しい判断を迫られることになる。
(関西テレビ記者 藤田裕介、菊谷雅美、髙橋惟、樋口諒)
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