静岡地裁に入る袴田さんの姉のひで子さん㊥(24日、静岡市)

1966年に静岡県で一家4人が殺害された事件で、死刑が確定した袴田巌被告(88)の再審公判が24日、静岡地裁(国井恒志裁判長)で開かれた。有罪を求める検察側と、無罪を訴える弁護側の双方が立証を終え、半年に及んだ審理は区切りを迎えた。次回公判で論告求刑と最終弁論を経て結審し、判決は今年夏ごろになるとみられる。

この日は犯行時の着衣とされた「5点の衣類」に付いた血痕が「袴田さんとは異なる」としたDNA型鑑定の信頼性を巡る審理が行われた。

鑑定は弁護側が再審請求審で実施した。袴田さんの無罪を示すものだとする弁護側に対し、検察側は専門家の供述などを踏まえ「試料の劣化でDNAの検出は困難で、外部汚染の可能性も否定できない」と強調した。

2023年10月の初公判以降、14回を数えた審理は今回で双方とも予定していた立証を事実上終え、5月22日の論告求刑公判と判決を残すのみとなった。

弁護団の小川秀世弁護士は期日後の会見で「無罪判決に絶対的な自信を持っている」と振り返った。静岡地検の小長光健史次席検事は「これまでの証拠調べの結果を踏まえ適正に求刑したい」とした。

これまでの公判で、双方の主張は様々な論点で鋭く対立してきた。まず浮き彫りになったのは、動機や犯人像などに関する見解の違いだ。

検察側は凶器とされる「くり小刀」のさやが、みそ工場の従業員用だった雨がっぱのポケットから発見されたなどとして、犯人は工場関係者と推認できると主張した。その上で、事件当日に従業員寮の部屋に一人でいた袴田さんは、他の従業員らに気付かれずに殺害を実行できたとした。

対する弁護側は、袴田さん一人で近隣住民に気付かれることなく4人を相次いで殺害するのは不可能だと反論。現金の入った布袋が現場に残されていたことなどから、動機は金銭目的ではなく怨恨で、工場とは関係のない複数の外部犯の犯行だとの事件像を描いた。

公判で最大の焦点となるのは、事件から約1年2カ月後、現場近くのみそ工場のタンク内から見つかった5点の衣類の証拠評価だ。確定判決は、袴田さんがこれらを着て犯行に及んだと認定し、有罪の根拠とした。

一方で、再審を認めた23年の東京高裁決定は、衣類に付いた血痕に「赤み」が残っていたことを疑問視。弁護側鑑定書などを基に「1年以上みそ漬けされた血痕の赤みは消失する」と認め、衣類は袴田さんの逮捕後に入れられた可能性が否定できないと結論付けた。捜査機関による捏造(ねつぞう)の可能性にも踏み込んだ。

1年以上みそ漬けされた血痕に赤みは残らないのか、残りうるのか。無罪か有罪かを左右する核心を巡って、24年3月には3日連続で双方の主張を支える専門家証人の尋問が行われ、科学論争が展開された。

検察側証人は、再審公判で新たに提出された「共同鑑定書」を手掛けた法医学者を含む2人。血痕の変色はタンク内の酸素濃度や乾燥などで遅くなりうるとし「赤みが残る可能性は否定できない」と述べた。弁護側鑑定書を信頼して赤みは残らないとの結論を導いた高裁決定を「科学リテラシーがない」などと批判した。

弁護側の法医学者ら3人は、タンク内には血痕が黒くなる反応が進むのに十分な酸素量があったと応酬。弁護側鑑定書の結論は揺るがず「赤みが残ることはない」と強調した。静岡地裁は双方の証言を踏まえ、どちらの主張が妥当かを判断するとみられる。

弁護側は一連の公判で、5点の衣類は捜査機関による「捏造証拠」で、無罪の袴田さんを犯人に仕立てあげたと強調してきた。これに検察側は「著しく困難で非現実的」「事実に反する」と強く反発した。

判決は夏ごろに言い渡されるとみられる。有罪か無罪かの結論に加え、捏造の有無について地裁が言及するのかも注目される。

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