言葉を思うように出せない言語障害「吃音(きつおん)」がある若者が接客する「注文に時間がかかるカフェ(注カフェ)」が22日、松山市に1日限定で営業した。「吃音や人を恐れず対応したい」「コミュニケーション力を向上させたい」。そんな思いで、10~20代の男女3人が接客に初挑戦した。
「カラオケが好き。歌っている時は吃音が出ないんですよ」。愛媛県立新居浜西高校3年の金子諒哉(まさや)さん(18)は、男性客と笑顔で会話していた。金子さんは上級生らから吃音をからかわれたり、まねされたりしたことが原因で、小学4年や高校1年の時に数週間から数カ月間、不登校になった。「吃音への理解を広げたい」と思い立ち、高校2年の時からこれまでに数回、学校の集会で講演。吃音の特徴や接する時に気を付けてほしいことなどを伝えた。
元々、話すことは好きだという金子さん。「初対面で、今の自分がどこまで緊張せず対応できるのか試したい」と注カフェへの参加を決意した。約4時間の営業を終え「自分の接客をお客さんに喜んでもらえて達成感をすごく得られた」とすがすがしい表情を見せた。
注カフェは、接客業に挑戦したい若者たちを後押ししようと2021年に始まった。これまで徳島や香川など全国29カ所で開かれており、愛媛では初めて。自身も当事者で、発起人の奥村安莉沙(ありさ)さん(32)=東京都=は「注カフェで得た自信を折々に思い出して、やりたいことを諦めない人生を歩んでほしい」とエールを送る。
注カフェではまず、受け付けで客に吃音の特徴や接し方を説明することから始まる。「(店員の話を)遮らずに言い終わるまで待ってください」「言葉がうまく出ませんが他の人と同じように接してもらえるとうれしいです」。説明を書いたボードを示しながら丁寧に伝える。
金子さんに誘われ、店員を務めた愛媛県立三島高校3年の大塚裕貴さん(18)は「思っていた以上に面白かった。参加して良かった」と充実した表情。趣味は映画鑑賞で、大学進学後は「映画館でアルバイトをしてみたい」と新たな目標もできた。
同じく店員を務めた愛媛県東温市の丹生谷(にゅうのや)未来さん(21)は「これまでは極力、人と話したくない」と思っていたと打ち明ける。だが「積極的に話すこともできて良い経験になった」と振り返った。現在、弁当店で働いているが、店側の理解もあって販売の仕事は免除されている。「接客もいつかできたら」。仕事への意識が変化したようだった。
カフェには、金子さんが通う新居浜西高で人権教育を担う佐伯康英教諭(61)も客として訪れていた。接客に挑戦する姿に目を細め、「金子さんは学校の皆の吃音への理解を進めてくれた。自分のことを語る姿に勇気をもらった生徒もたくさんいる」とその姿勢をたたえた。
金子さんの将来の夢は、教師になることだ。「僕は吃音で学校に行くのがつらい時期があった。精神的にしんどい生徒を支える存在になりたい」【山中宏之】
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