兵庫県政を揺るがす文書告発問題を巡り、県議会(定数86)から不信任決議を全会一致で突きつけられた斎藤元彦知事(46)。斎藤氏は26日午後3時から県庁で記者会見を開き、辞職・失職か議会解散かの判断を明らかにする。注目の会見を前に、異例の経緯をたどった問題をおさらいする。
不受理になった退職届
パワーハラスメントにプロ野球の阪神・オリックス優勝パレードを巡る不正、贈答品の「おねだり」……。斎藤氏や「腹心」の県幹部に関する疑惑が表面化したのは、半年前の3月中旬だった。
「斎藤元彦兵庫県知事の違法行為等について」。こう題したA4判の文書計4枚が、一部の県議会議員や報道機関に匿名で届いた。
配布したのは、県西播磨県民局長だった男性(60)=当時、7月に死亡=だ。文書には七つの疑惑が記されていた。(七つの疑惑とは)
斎藤氏が文書の存在を把握したのは3月20日。翌21日、片山安孝副知事(当時)らと対応を協議し、告発者の特定を含めて調査を指示した。
間もなく、公用メールの履歴分析から局長の関わりが浮かぶ。
25日、片山氏は県庁から70キロ以上離れた西播磨県民局(兵庫県上郡町)に出向き、局長に何度も「自白」を迫った。この対応は公益通報者保護法が禁じる「告発者捜し」にあたる可能性が高い。(「誰に聞いたんや」)
片山氏はこの席で、告発前から提出されていた局長の退職願の不受理も通告していた。(決裁前に通告)
斎藤氏、徹底抗戦
「内容はうそ八百」「公務員失格」。斎藤氏は告発者の特定を受けた2日後の記者会見で、局長を激しい言葉で非難した。退職も認めず、局長の職を解いた。
元局長は4月に入り、疑惑について県の公益通報窓口にも通報した。
「公益通報の調査結果が出るまで処分しない方がいい」と進言する職員もいたが、県は公益通報者保護法の対象外として内部調査を進めた。
県は5月、文書について「核心的な部分が事実ではなく、誹謗(ひぼう)中傷にあたる」とする調査結果を公表。元局長を停職3カ月の懲戒処分にした。
県議会は6月13日、「調査は公平性、客観性に欠ける」として、51年ぶりに調査特別委員会(百条委員会)の設置を決めた。(「伝家の宝刀」百条委とは)
斎藤氏は記者団に「適切な時期に自分の言葉で文書に関する考えを説明し、出てきた課題を改善していきたい」と説明。元局長は「真実が明らかになっていくことを願っています」とのコメントを出した。
百条委の設置から1週間後。斎藤氏は定例の記者会見で告発内容に関する自身の見解を初めて公表し、全ての項目を一つずつ説明しながら否定した。パワハラ疑惑は「業務上の指導の範囲内で適切に指導・助言している」と語った。
事態が急展開したのは7月だ。7日、百条委に証人として出席予定だった元局長が親族宅で死亡しているのが見つかった。自殺とみられている。
この5日後、副知事の片山氏は県政が混乱する責任を取って辞表を提出。記者会見で「計5回、知事に『進退をお考えになりませんか』と進言したが、『選挙で負託を得た身なので任期を全うしたい』と断られた」と明かした。
潮目変わった「道義的責任」
2021年の県知事選で日本維新の会とともに斎藤氏を推薦した自民党からは、辞職を求める声が公然と出始める。一方、維新は百条委の真相究明を待つ姿勢を崩さなかった。
百条委は19日から始まり、元局長が残していた計11ページの陳述書と1分弱の音声データが調査資料として採用された。(陳述書を公開)
百条委が県職員を対象に実施したアンケート調査では、さまざまな疑惑に対する新証言も寄せられた。(「お土産ない遠足は行かない」)
8月30日。斎藤氏は百条委の証人尋問に初めて出頭した。
県職員への指示や叱責について「反省」としつつも、業務上の必要性を強調して従来の主張を展開。元局長の処分については「今も適切だと思っている」と訴えた。
9月6日に実施された2度目の証人尋問で、斎藤氏は百条委の委員から道義的責任を問われると、「道義的責任が何か分からない」と発言した。
自身の正当性を繰り返し、辞職を拒み続ける斎藤氏。「静観」してきた維新も次期衆院選が迫る中、世論の逆風に押されるように辞職要求に傾いていった。
全ての県議86人は9月定例会の開会日を迎えた19日、斎藤氏への不信任決議を提案し、全会一致で可決された。
斎藤氏はこの直後、「大変重く受け止めている。兵庫県にとって何が大事か、心の中で問いながら考えていきたい」と報道陣に語った。
総務省によると、都道府県議会で不信任決議が可決されたのは5例目。過去4例はいずれも知事が失職・辞職しており、議会が解散された例はない。
東大から総務官僚、そして首長へ。「エリート街道」から一転、四面楚歌(そか)の状況に追い込まれた斎藤氏はどの道を選ぶのか。その判断と発言内容に視線が注がれている。(「暴君」?斎藤氏とは)【中尾卓英、山田麻未、山本康介、井上元宏】
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