1966年6月に静岡県清水市(現静岡市)で一家4人を殺害したとして、強盗殺人などの罪に問われ死刑が確定した袴田巌さん(88)に対するやり直しの裁判(再審)で、静岡地裁は26日、無罪判決(求刑・死刑)を言い渡した。国井恒志裁判長は、捜査機関が三つの証拠を捏造(ねつぞう)したと認定し、「袴田さんが犯人とは認められない」と述べた。
死刑囚に対する再審無罪判決は静岡県島田市で女児が誘拐、殺害された「島田事件」以来、35年ぶりで戦後5事件目。過去4事件はいずれも検察が控訴せず確定しており、検察側は控訴の可否の判断を迫られる。
再審では、確定判決が犯行着衣と認定した「5点の衣類」が最大の争点となった。
衣類は袴田さんの逮捕から約1年後、袴田さんが勤務していたみそ製造会社のみそタンクから発見された。5点の衣類には血痕が付着し、赤みが残っていたとされる。弁護側は「長期間みそ漬けされれば、血痕は赤みを失う」と主張していた。
判決は、弁護側のみそ漬け実験や専門家の見解に基づいて、1年以上みそ漬けされた5点の衣類の血痕の赤みは化学反応により黒褐色化すると認めた。血痕に赤みが残っているということは、袴田さんの逮捕後に5点の衣類がみそタンク内に入れられたことを示しているとし、犯行着衣ではないと判断した。
その上で、「5点の衣類は何者かに捏造されたと考えるほかない」と言及。当時、確定審で公判中だった袴田さんを犯人とする有力な証拠は乏しく、袴田さんを有罪と決定付けるため、捜査機関が5点の衣類を捏造することは現実に想定しうるとした。
袴田さんの実家からは5点の衣類の一つであるズボンと同じ生地の切れ端が見つかっているが、判決は、発見経緯が不自然だとして捏造を認定。さらに袴田さんが「自白」した供述調書についても、袴田さんに肉体的・精神的苦痛を与えて供述を強制する、非人道的な取り調べにより獲得されたものだとし「実質的に捏造された」と批判した。
弁護団事務局長の小川秀世弁護士は「無罪は当然。三つの大きな論点で捏造が認定されたのは画期的だ」、静岡地検の小長光健史次席検事は「判決内容を精査して適切に対処したい。控訴するかは上級庁と協議し対応したい」とした。【巽賢司】
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