大きさや色づき、傷などを選別して出荷される蓮台寺柿=伊勢市藤里町のJA伊勢蓮台寺柿共同選果場で2024年9月25日、小沢由紀撮影

 三重県伊勢市の天然記念物に指定されている蓮台寺柿の出荷が25日、始まった。地元で長く親しまれる「知る人ぞ知る」特産物を今年も楽しみに待つ人が多い中、柿農家は高齢化など課題を抱えている。今後も栽培を続けていくため、市や生産者らは一緒になって新たな取り組みを始めようとしている。

 伊勢市藤里町のJA伊勢蓮台寺柿共同選果場には前日に収穫し、一昼夜かけて炭酸ガスで渋を抜いた蓮台寺柿が次々と運び込まれていた。傷や色づき、大きさで選別され、箱詰めされた。出荷は11月中旬ごろまでの予定で、伊勢市内や近隣地域のスーパーや青果店の店頭に並ぶ。JA伊勢蓮台寺柿部会の大西信孝部会長は「今年は小ぶりだが糖度は高い。ここでしか味わえない貴重な蓮台寺柿を、ぜひ多くの人に味わってもらいたい」と話している。

 約350年前に現在の伊勢市勢田町にあった「鼓嶽山蓮台寺」にちなんで名付けられた。現在はJA伊勢蓮台寺柿部会に所属する38軒の生産者のほか、約20軒が独自のルートによる販売や自家消費をしている。なめらかな果肉ととろけるような甘さが特徴で、市は宅地開発が進んできた産地を守ろうと1958年に天然記念物に指定し、県にも「みえの伝統果実」に認定された。

 収穫は9月下旬から11月中旬にかけて行われる。果肉がすぐに柔らかくなり、日持ちしづらいことから消費は地元が中心だ。近年は市内のスイーツ店や飲食店でも利用が高まり、「食べられる天然記念物」として人気を集めている。

「協議会の発足で、蓮台寺柿の伝統がつながるよう期待したい」と話すJA伊勢蓮台寺柿部会の大西信孝部会長=伊勢市勢田町の柿農園で2024年9月17日、小沢由紀撮影

 一方で、柿農家を取り巻く状況は厳しい。生産者のほとんどが60歳以上で高齢化が進むほか、生産者数と作付面積、出荷量は年々減少している。ここ数年は年間200トン前後を出荷しているものの、今年は高温とカメムシによる虫害で100トン程度に半減する見込みだ。

 また、価格は市による生産者を対象にしたアンケートによると、平均で1個あたり68円。消費者にとってはてごろでも、年々上がる肥料や人件費と釣り合わず、収益が思うように上がらないのが現状という。

 貴重な蓮台寺柿を守ろうと市は生産者やJA伊勢、商議所、学術関係者、加工品開発業者、飲食店などに呼び掛け、産地保護などを目的に10月にも「蓮台寺柿産地協議会(仮称)」を発足させる。地理的表示(GI)の取得やブランド化を進め、産地の保護や後継者不足、安定した生産体制などの課題を克服し、持続可能な生産体制を目指す。

 発足に先駆けて9月11日には他県の高付加価値果実の事例を学ぶ講演会を開催し、多くの生産者らも受講した。今後は協議会でブランド化や価格アップ、加工品の開発など、さまざまな角度から伝統果実を守る施策を探っていく。大西部会長は「市が力を入れてくれるのはうれしい限り。ほとんどの生産者が伝統を残したいと考えているが、現状維持が精いっぱい。さまざまなアイデアで道が開けるよう、心一つに取り組みたい」と、伝統の果実を守るため、意気込みは増している。【小沢由紀】

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