「島耕作」が掲載された雑誌「モーニング」46号=2024年10月20日、宮城裕也撮影

 週刊漫画雑誌「モーニング」(講談社)で連載中の「社外取締役 島耕作」(作者、弘兼憲史氏)で、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設先として政府が進める名護市辺野古の埋め立て工事に抗議する人について「アルバイトで日当をもらっている」と表現する場面が描かれた。

 X(ツイッター)では「内容はデマだ」との投稿が相次ぎ、講談社は21日、「当事者から確認の取れていない伝聞で、フィクション作品とはいえ軽率な判断だった」などとする「おわび」を掲載するとした。

「日当で雇われたことがありました」

 問題となった描写は、沖縄を訪れている主人公・島耕作らが、埋め立て工事の様子を眺めながら食事をする場面。17日発売の「モーニング」46号に掲載された。

 地元住民とみられる女性は工事について「あれは米軍の辺野古埋め立て地 普天間飛行場をこっちに移動させる工事」と説明する。そして「抗議する側もアルバイトでやっている人がたくさんいますよ 私も一日いくらの日当で雇われたことがありました」と島に語る。

 反対運動が起こる理由の一つとして「基地移転によってサンゴ礁などの生態系が破壊されるのではないかという懸念がある」と話している。

講談社「フィクションであっても軽率」

 毎日新聞の取材に対し、講談社は編集部と弘兼氏によるコメントとしてメールで回答した。

米軍普天間飛行場の沖縄県名護市辺野古への移設に反対する座り込みが10年を迎えるのを前に、米軍キャンプ・シュワブ前で集会を開き移設に抗議する人たち=同市で2024年7月6日午後0時33分、喜屋武真之介撮影

 執筆の経緯については「作者・担当編集者が沖縄へ赴き、ストーリー制作上必要な観光業を中心とした取材活動をした。その過程で、『新基地建設反対派のアルバイトがある』という話を複数の県民の方から聞き作品に反映させた」と説明した。

 問題の描写については「あくまで、当事者からは確認の取れていない伝聞だった。にもかかわらず断定的に描いたこと、登場キャラクターのセリフとして言わせたこと、編集部として掲載したことは、フィクション作品とはいえ軽率な判断だったと言わざるを得ません」とし、読者に「お詫(わ)びする」とした。

 これらのコメントは、来週以降の「間に合う号」で掲載予定だとし、単行本の掲載時には内容を修正するという。

「現金支給の証拠はない」

 基地反対運動の参加者に日当が支払われているとの言説は、これまでも問題視され、裁判では「証拠がない」との判断が示されている。

 2017年、TOKYO MXの番組「ニュース女子」は、沖縄県東村高江地区で進められた米軍ヘリパッドの建設の反対運動を特集。この中で、運動の参加者に日当が支払われていると紹介した。

 放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会は「真実性を証明するものとは言えない」として、番組について「重大な放送倫理違反」との意見を示した。

 また、番組内で「職業的に資金提供した黒幕」とされた人権団体の共同代表は、番組の製作会社を名誉毀損(きそん)で提訴した。東京地裁は、反対運動の参加者への現金支給についての証拠はないとし、番組製作会社に550万円の支払いを命じた。23年、この判決が確定している。

 <伝聞を根拠に描いた漫画を編集者が載せてしまう。編集者のチェックが甘いのかそういうことを信じ込んでいる人間なのか>

 <証明されているデマがなぜ流れたか。関係者は説明を>

 Xでは「モーニング」46号の発売直後から、こうした投稿が相次いでいた。

 沖縄県名護市辺野古の米軍キャンプ・シュワブのゲート前で、14年7月に座り込みの抗議活動が始まった当初から参加している地元のライター、浦島悦子さん(76)は、事実ではない言説の広がりを肌で感じているという。

 今月、東京から修学旅行でゲート前に訪れた高校生から「抗議している人はお金をもらっているのですよね」と尋ねられたという。高校生は支払い主について「中国だと思う」と話した。浦島さんは「日当をもらったことは一度たりともない」と強調している。【宮城裕也、比嘉洋】

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